《本記事のポイント》
- 鄭州市の防疫施策に反旗を翻す工場労働者たち
- 大学生も一斉帰宅や抗議運動を展開
- 封鎖をいきなり解除する都市も
現在、習近平主席の「ゼロコロナ政策」と李克強首相の「経済優先政策」との間で、依然、せめぎ合いが進行している。
周知の如く、今年10月の第20回党大会で、「習近平派」が「反習近平派」(李首相の「共青団」・「上海閥」・大半の「太子党」)に大勝利した。だが、来年3月の全人代まで、李首相が国務院のトップを務める。そこで、首相は何とか経済を回そうと、「ゼロコロナ政策」に対し"最後の抵抗"をしているのではないか。
そんな二つの考え方がぶつかっているケース・スタディとして、ここでは河南省鄭州(ていしゅう)市を取り上げてみたい。
鄭州市の防疫施策に反旗を翻す工場労働者たち
鄭州市は「ゼロコロナ政策」の"模範市"かもしれない(おそらく、鄭州市のトップは、習主席への忠誠を示そうとして、厳しいPCR検査やロックダウンを行っているのではないだろうか)。
今年10月8日、鄭州市では、PCR検査を全員受けよという「140号通告」を公布した(その後も、次々と「141号通告」、「142号通告」、「143号通告」等を発布している)。
10月下旬、約30万人が働くと言われる鄭州市の「富士康」(鴻海Foxconn)で2万人のコロナ感染者が出たという。そこで、社員を管理徹底し、同一食堂での一斉食事は禁止された。
これに反旗を翻し、大量の帰省者が出ている。
なおその「富士康」寮726号室で、若い女性8人が原因不明のまま、全員死亡した。コロナに感染した疑いが持たれているが、その部屋に薬や食事が運ばれた形跡は見当たらないという(彼女らは同社に見捨てられた可能性がある)。
大学生も一斉帰宅や抗議運動を展開
同市では大学生による抗議も目立った。
目下、中国各地では「ゼロコロナ政策」によるPCR検査・ロックダウンに対し、大学生が"消極的"に抵抗している。例えば、紙製の犬を連れて(引っ張って)夜、散歩する。あるいは、大学生が夜、皆でグランドに集まって一定方向に赤ん坊のように這う。確かに、どちらも多少ストレス解消となるかもしれない。
けれども、鄭州市の大学生の抗議は"消極的"ではなかった。
11月8日、黄河科学技術学院の南キャンパスで「富士康」と似たような事態が起きている。3万人以上の学生が抗議のため、一斉に下校し、学校周辺の道路は人でごった返し、学生を迎えに来たタクシーや自家用車がほぼ満杯になったという。
同月16日には、鄭州大学の大学生たちが厳しいコロナ防疫に対し激しい抗議も行っている。大学側が交渉人を送ったが、学生達の訴えを回避しようとして、行政棟に逃げ込んだ。学校側が先頭に立った学生に報復しているという噂が出回った。だが、学校側は学生の処分を否定している。
学生側が提出した「九大要求」には、ロックダウンの解除、夏休みの帰省許可、商店街のオープン、抗議学生の処分撤回などが盛り込まれている。
封鎖をいきなり解除する都市も
一方、11月14日、河北省石家荘市は突然、封鎖を全面解除し、PCR検査実施もやめるという通達が発布された。
石家荘市では前日(13日)、500件以上のコロナ感染者が確認された。それにもかかわらず、翌日、完全なる封鎖の解除が行われたという。ショッピングモールはオープン、学校も再開、PCR検査はもうやらない、という知らせが届いた。同市民は「なんという急展開、夢のようだ!」と喜んでいる。
11月11日、国務院が「新型コロナ防疫措置の更なる最適化・科学的かつ正確な防疫工作に関する通知」を公表した。その後、陝西省鎮坪県、福建省福州市、江西省広昌県、吉林省延吉市、安徽省合肥市、上海市等の地域で、全住民を対象としたPCR検査中止や一時停止が発表され、風向きが変わってきた印象がある。
しかし、共産党統治下ではしばしば「朝令暮改」が起こるので、将来、どうなるかわからないだろう。
※『中国瞭望』記事など参照。
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ザ・リバティ』2022年12月号
幸福の科学出版
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