《本記事のポイント》

  • なぜ続投阻止は失敗したのか?
  • 習主席続投は共産党の寿命を縮める
  • 中国に予想される8つの困難

10月13日、彭載舟(本名、彭立発)が起こした「北京四通橋横断幕事件」や中国のSNS上での書き込みなどから分かる通り、明らかに、中国人民の"民意"は、習近平主席「3期目続投」にはノーであった。しかし、第20回党大会では、"民意"とは反対の方向へ進んだ。

なぜ続投阻止は失敗したのか?

実は今度の党大会で、元老達(「老人帮」)が立ち上がって「救国」(正確には「救党」)を宣言し、習近平主席の「3期目続投」を阻止しようとした。そして、確かに、そのチャンスはあったかもしれない。

まず一つは、選挙による平和的な政権移行である。もう一つは、軍事力による「クーデター」的な政権移行だった。

今度の党大会では、2310名が参加している。その中には、決定的な影響力を持つ主席団常務委員会46名が存在した。その常務委員会に、元老達の数は19名を占め、4割以上にも達した。そこに現役の政治局委員を加えれば、「習近平派」より「反習近平派」が多かったのである。選挙による平和的な政権移行が可能だったはずである。

それにもかかわらず、元老達を含めた「反習派」は、習主席「3期目続投」を阻止できなかった。恐らく、一部の「反習派」現役幹部らが結束せず、「習派」へ"寝返った"のではないか。

他方、なぜか「反習派」の「切り札」である軍が動かなかった(「中立」を維持)。一時、江沢民が中央軍事委員会を掌握していたのではなかったのか。そして、「反習派」の急先鋒、李橋銘「陸軍司令官」や林向陽「東部戦区司令官」(両上将共に一度更迭されたが、軍事委員会によって前者は昇格、後者は再任された)には、軍派遣の要請はなかったのだろうか。

習主席続投は共産党の寿命を縮める

仮に、李克強首相が総書記になれば、「改革・開放」政策をとり、共産党の寿命が延びる可能性があった。しかし、習主席「3期目続投」となれば、党の命脈も早く尽きる公算が大きい。習主席は「死の道」への"加速師"と呼ばれているのだ。

今回、党全体の総意として、後者を選択したと考えられる(共産党の問題点は、"ストロングマン"がこうだと言ってそちらへ進めば、一斉になびく。彼に対し、決して抗えない気質なのかもしれない)。

習主席続投の場合、経済的破綻から、共産党政権自体のハードランディングも十分あり得るのではないだろうか。恐らく共産党幹部は、自らの利益(生き延びる道)ばかりを考えて、人民のことはまったく考慮しなかった結果だと言えよう。

中国に予想される8つの困難

さて、習主席「続投」は、第1に「ゼロコロナ政策」を継続するという意味ではないか。毎日のように行われる厳しいPCR検査や大都市でのロックダウン等で、国内外サプライチェーンが寸断されるだろう。

第2に、習主席は「改革・開放」を好まず、いわば「鎖国政策」を実行するかもしれない。そうなると現在、中国に存在する外資は海外へ流出する可能性が高い。中国国内での生産活動は、縮小するに違いない。

第3に、目下、中国国内では、不動産ディベロッパーの「未完成建物」の増大で、購入者の「ローン不払い」が激増している。つまり、地方政府や地方銀行の不良債権が増えている。一部の地方銀行では預金者への不払いが起きた。

最終的に、中央政府の財政赤字が膨らみ、中国経済がさらに悪化するだろう(第20回党大会中、北京は第3四半期のGDP(国内総生産)発表を延期したほどである)。

第4に、元安傾向に歯止めがかからない。10月22日現在、1米ドル=7.24元と、中国でも元安となっている。

無論、元安は輸出には有利だが、海外からモノを輸入する場合には高価格となる(なお中国は、集積回路・コンピュータ部品、光学・医療機器、金属鉱石等の他、エネルギーや食糧を他国から大量に輸入している)。国内の物価高は避けられないだろう。

第5に、「戦狼外交」が継続し、ますます外国との摩擦が大きくなるだろう。

特に、米国との対決姿勢を鮮明にするのではないか。恐らく習主席の「中国の夢」とは、"世界制覇"である。米国による世界支配体制(「パクス・アメリカーナ」)打破を目指すだろう。「戦狼外交」や、その延長線上にある"世界制覇"路線は、外国とのさらなるトラブルを招く公算が大きい。

一方、習主席は悲願である台湾との統一を早めようとするかもしれない。台湾との「1国2制度」による平和的統一は、大部分の台湾人が反対している。中国の武力による台湾統一を容易ならざるものとすべく、世界は対策を急ぐべきだ。

第6に、習政権は「一帯一路」構想で、さらに巨額のカネをばら撒く公算がある。しかし、それは将来、財政破綻を招く恐れがあるだろう。

第7に、「第2文革」(子供が親を、学生が教師を「密告」する等)で、国内がギスギスするのではないか。

第8に、中国はすでに「少子高齢化」の時代を迎えている。若い労働力に溢れた「人口ボーナス」は消滅し、高齢者の多い「人口オーナス」(社会保障費等の増大)が習政権を苦しめるのではないだろうか。

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アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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