《本記事のポイント》
- 1年半の政権運営で経済に壊滅的な影響を与えたバイデン政権
- インフレを加速するインフレ低減法案
- 勤労意欲を喚起する政策は一つもない
米商務省が28日に発表したアメリカの第2四半期のGDP成長率は、前期比年率換算でマイナス0.9%となり、第1四半期のマイナス1.6%に続く2期連続のマイナス成長となった。
戦後から四半期ごとで数えると、300四半期が存在する中で、第1四半期のマイナス1.6%は、20番目に悪い成長率となった。
通常、2期連続のマイナス成長は、国際的にテクニカル・リセッションと呼ばれ、景気後退に入ったと見なされるのだが、これを「景気後退」とみなすべきではないとしてイエレン米財務長官は、「経済学者らが定義する景気後退ではない」と主張している。
景気が前進している兆し!?
第2四半期の国内総生産(GDP)の発表のあった木曜日にバイデン大統領は、「(マイナスに転じた第2四半期のGDP成長率は)、景気が前進していることの兆しだ」とまで述べており、中間選挙を前に政権にとって「不都合な真実」を何としても認めない構えである。
だが、どこをとっても景気が前進している兆しはない。
米個人消費の伸び率は、たったの1%で、昨年の1.8%から0.8%もダウンし、コロナが始まって以来最大の落ち込み幅を示している。しかもその消費は、貯蓄を切り崩しているものとなっている。インフレの上昇率に見合って賃金が上昇しているわけではないからだ。
民間投資も第2四半期は13.5%減と、壊滅的な数字となっている。
インフレで平均的な家計の「可処分所得」が4000ドルも減少する中で、ひたひたと景気後退が進んでいるのだ。
1年半の政権運営で経済に壊滅的な影響を与えたバイデン政権
バイデン氏は政権発足時の2021年1月に、6%のGDP成長率をトランプ政権から引き継いだ。
以下の図は、ギャラップ社が行った国民の景況感に関する世論調査である。
ギャラップ社が行った国民の景況感に関する世論調査
経済が「良好」または「とても良好」と感じるアメリカ人の割合は、新型コロナウィルスが流行する前のトランプ政権時には右肩上がりで上昇し、60%を超えている。
新型コロナウィルス流行後にいったん落ち込みを示したものの、トランプ大統領による減税路線、規制緩和などの推進で、GDP成長率6%という驚異的なV字回復を示すと、景況感は高まり、経済が「良好」「とても良好」だと応える国民の割合は、20%程度から40%弱まで一気に高まった。
バイデン政権発足後、たったの1年半でこの景況感が破壊され、オバマ政権時と同程度まで落ち込んだ。
インフレを加速するインフレ低減法案
民主党政権にとって昨年より悲願となっていた「より良い再建(Build Back Better)」法案は「インフレ低減法案(Inflation Reduction Act)」と名称を変えて可決へ向かう見込みとなった。
水面下で交渉が行われてきたとされる、チャック・シューマー上院院内総務とジョー・マンチン上院議員との間での合意が成立したからだ。
「インフレ時の増税はインフレを加速させる」としてきたマンチン氏が、いわば拒否権を発動して、法案の成立を阻止してきたが、腰折れした形である。同氏の「インフレ時に増税すべきではない」とした過去の発言は、保守系メディアでは、今や同氏が巨大な政府支出と増税に賛同する側に「転向」し、政治的信念の欠落を示す証拠だとして広く出回り始めている。
というのも「インフレ低減法案」の歳出の規模は、当初の数兆ドルから総額4300億ドル(57兆円)の歳出法案となり縮小される見込みだが、財源とされる歳入では増税法案が含まれているからだ。
法案では、企業の最低税率を15%に引き上げるなど7390億ドル(約98兆円)の増税とともに、内国歳入庁(IRS)の税法執行を強化することで財源を賄うことができるとされている。
徴税能力を高めるためのIRSの職員の7万5000人もの増員は、共和党系の企業や寄付者を狙い撃ちにする悪辣な政策ともなりかねないものである。
今週にも、シューマー氏は「財政調整措置(リコンシリエーション)」を用いて可決させる意向だ。この手続きは通常の60票ではなく51票の賛成で法案を可決できるため、民主党全員が支持すれば単独での可決が可能になる。
時期を同じくして、アメリカでは半導体の国産を後押しする補助金に527億ドル(約7兆1000億円)を投じる法案が賛成多数で可決されたばかりである。
巨大な政府支出を伴う政策には、支持率の落ち込みが激しい民主党政権としては、中間選挙前に何らかの「成果」を上げて、国民の支持率を回復させたいという思惑が透けて見える。
では、民間の投資意欲や個人消費が落ち込んでいるインフレ時に増税し、政府支出を増やせばどうなるのか。
現在米企業はインフレの煽りを受けて、見かけ上の売り上げ増から、利益が過大評価され、税負担が重くなっている。2017年末に成立したトランプ氏の大型減税がなければ、40年ぶりの高インフレを機に経営危機に陥る企業数は増えていただろう。
インフレ税ともいうべきものが課されている中、さらに税を課されれば、企業は投資も生産も減らし、最終的には人件費を削るために解雇に踏み切らざるを得ない。
また貨幣を市場に放出する「インフレ低減法案」は、燃える火に油を注ぐようなものである。良いインフレ時と異なり、悪いインフレ時の増税は、不況を恐慌に転じかねない政策となる。
勤労意欲を喚起する政策は一つもない
問題は多くのメインストリームメディアが、歳入増のために増税を含んだ「インフレ低減法案」を、極めて好意的に取り上げ、バイデン政権の政策を支持していることだろう。
だがアメリカでは、新型コロナウィルスの感染が急拡大する直前の2020年2月の時点に比べ、労働者が労働市場に戻ってきていない状況にある。
トランプ政権およびレーガン政権の経済顧問だったラッファー博士が著書『大きな政府は国を滅ぼす』において述べているように、「勤勉に働く人に課税し、働かない人に支払えば、多くの人が働かなくなる」のである。
トランプ元米大統領の守護霊は霊言で、バイデン氏について触れる中で、「経済が分かってないっていうのは、生きていく人たちに対する愛が足りないんだよ」と述べていた(2022年7月3日「トランプ守護霊の霊言」)。
国民にとっての長期的な幸福を考えれば、国民の勤労意欲を失わせる政策を行うことはできないはずである。
インフレを加速させる上に、国民を政府に依存させ、勤労意欲を失わせかねない法案。それが「より良い再建(Build Back Better)」の立て付けを変えた、「インフレ低減法案」である。この法案がトランプ氏から「より悪い再建(Build Back Worse)」と揶揄されるゆえんである。
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