《ニュース》

ウクライナ東部のドンバス地方・ルガンスク州戦線におけるウクライナ軍の苦戦を受け、ウクライナ政府に終戦に向けた冷静な判断を求める声がアメリカで高まっています。

《詳細》

米ニューヨーク・タイムズ紙は26日、「いかにして終わるのか ウクライナにおける勝利の定義巡り亀裂生じる(How Does It End? Fissures Emerge Over What Constitutes Victory in Ukraine)」と題した記事を、1面から2面にかけて掲載しました。

本欄でも報じたヘンリー・キッシンジャー元米国務長官による「領土を割譲してでもロシアとの和平交渉の道を探るべきだ」という趣旨の提言を引用した上で、それに猛反発するウクライナのゼレンスキー大統領自身が、実はかつて終戦に向けた条件として自国の「中立化」すら提示するなど、見解を二転三転させてきた過去に言及。

ゼレンスキー氏は開戦前の領土を回復した場合に限りロシアとの停戦交渉が可能だと主張するが、クリミアおよびドネツク・ルハンスク両州からロシアを追い出す試みは、「数多くの専門家がウクライナの能力を超えていると懸念する」ものだとして、「何をもって勝利とするか」はウクライナ政府の判断にかかっていると、冷静な戦況認識を求めています。

同記事は、ロシアを世界経済から切り離すべきだと主張するアメリカに対して、ヨーロッパ諸国が「プーチン大統領を孤立・侮辱することは危険だ」と警鐘を鳴らしてきたことにも触れており、まるで「バイデン・ゼレンスキー両大統領による"戦略なき反露姿勢"とは一線を画すのだ」と、社の方針を読者に強調するかのような内容です。

ニューヨーク・タイムズ紙はこれまでも、バイデン米政権によるウクライナへの武器供与に懸念を示す記事や、ウクライナ東部におけるロシア軍の優勢を示す記事を発信してきました。19日には、東部での戦況悪化を受けたためか、社説で「交渉による和平がウクライナに厳しい決断を求めるものであったとしても、ロシアとの全面戦争に飛び込むのはアメリカにとって得策ではない」と、ウクライナによる領土割譲を踏まえた議論を展開しました。

ちなみにこの記事に対して、ウクライナの英語ジャーナル「ザ・キーウ・インディペンデント」は社説で反論記事を掲載し、「ウクライナは自由世界を代表してこの戦争を戦っている。世界が自由であり続けるために。自由世界は少なくとも、ウクライナ人の勇敢さに合わせるよう努力すべきだ」と、強気の姿勢を示しています(24日付電子版)。

19日に400億ドル規模(5兆円超)のウクライナ支援法案が米上院を可決して以降、保守・リベラル両陣営から戦争の拡大・長期化、および米国民の生活への打撃を懸念する声が高まっていますが、ドンバスにおけるウクライナ軍の苦戦を受け、いよいよ和平交渉に向けた現実的な譲歩を求める声が強まっていると言えます。

《どう見るか》