《本記事のポイント》

  • 未婚妊婦の中絶には当局の許可が必要!?
  • 近年減り続ける新生児数
  • 生産年齢人口の減少が経済成長阻害へ

中国ではしばしば、国家が個人や家庭に直接干渉する。「1人っ子政策」を行っていた際は、第2子以降を妊娠した女性は無理矢理、堕胎させられた。しかし今度は、以前とは真逆の政策を実行しようとしている。

未婚妊婦の中絶には当局の許可が必要!?

このほど発表された「2022年国家族計画協会の事業要領」によれば、未婚妊婦の中絶介入のため特別な行動を実施するという(*1)。すなわち、彼女たちが中絶を希望する場合、正式な許可を得る必要が出てきたのである(*2)。

2016年、ようやく「2人っ子政策」が開始されたが、あまり効果が見られなかった。そのため習近平政権は2021年5月、「3人っ子政策」を開始した。けれども、そう簡単に少子化を食い止める事はできない。そのため未婚女性に容易に子供を堕ろさせない"奇策"に打って出たのだ。

近年減り続ける新生児数

現在、中国は新生児の減少という深刻な事態に直面している。その主な原因は、長く続いた「1人っ子政策」(1979年~2015年)に求められるのではないだろうか(「都市化」も原因の1つかもしれないが)。

今年1月中旬、国家統計局は2021年の人口統計を発表した(「王萍萍:総人口の増加は維持され、都市化レベルは着実に上昇」『中国経済網』2022年1月18日付)。それによると、昨年生まれた新生児は1062万人で、前年より約140万人減った。1000人当たりの出生率も前年より低く7.52人となっている。また人口自然増加率も1000人当たり0.34人で、前年よりも下降した。

中国のシンクタンク「21世紀教育研究所」は『中国教育ウォッチ2021』と題する報告書を発表した。それによると2020年、幼稚園児数は4818万2600人で、ピークに達したという。その後は数が減り続け、2023年から2025年にかけて幼稚園児数が4000万人にまで減少すると予測。さらに、2025年から2030年にかけては3000万人にまで減少し、就学前教育の規模が急激に縮小するだろうと指摘している。

生産年齢人口の減少が経済成長阻害へ

この新生児の減少は、中国社会に深刻な結果をもたらすだろう。以前から言われていたように、全人民がある程度「豊かになる前に老いる(=高齢化する)」という現象が表面化してきたのである。

2021年末の0~15歳人口は2億6302万人で全人口の18.6%を占める。16~59歳の生産年齢人口は8億8222万人(全人口の62.5%)である。60歳以上人口は2億6736万人(同18.9%)、このうち65歳以上人口は2億56万人(同14.2%)という具合である。

前年と比較すると、0~15歳は528万人減少したが、60歳以上は329万人増え、65歳以上は992万人増加している。また昨年も、60歳以上と65歳以上の割合は前年に比べて、それぞれ0.2ポイントと0.7ポイントずつ増加している。高齢化が一段と進んでいるのだ。

生産年齢人口が減少し、被扶養人口が増えれば、いわゆる「人口ボーナス(bonus)」から「人口オーナス(onus)」に転落する。すなわち、労働者数の減少で消費が低迷する一方、1人当たりの社会保障負担が増大する。そのため、経済成長が阻害されるのではないだろうか。

(*1)『澎湃新聞』(中国オンラインの無料総合ニュースサイト)「中国家族計画協会、未婚者の人工妊娠中絶介入のための特別プロジェクトを今年開始」(2022年2月9日付)
(中国家族計画協会、未婚者の人工妊娠中絶介入のための特別プロジェクトを今年開始
(*2)『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』(米議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。民間の非営利法人が運営)「中国政府、未婚女性の中絶に『介入』特別措置を取る』(2022年2月10日付)(中国政府将采取专项行动"干预"未婚女性堕胎)

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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