《本記事のポイント》

  • 「恒大」以外に続々とデフォルトを起こす大手不動産会社
  • 各地で不動産が「白菜価格」に転落
  • 投機目的で建てられた「34億人分」のマンションが一斉値崩れを起こす

周知の如く、中国の不動産会社の中でナンバー2だった中国恒大が、事実上倒産した。しかし、他の不動産会社も経営難に直面している。

「恒大」以外に続々とデフォルトを起こす大手不動産会社

2021年12月から今年1月にかけて、以下の不動産会社がデフォルト(債務不履行)を起こした。

昨年12月6日、「陽光100中国控股(サンシャイン100チャイナ・ホールディングス)」は、1億7000万米ドル(約199億円)の社債がデフォルトに陥ったと発表した。翌7日、佳兆業集団が、満期を迎えた社債4億ドル(約460億円)を償還できなかった。

年明けの1月6日、「世茂集団」は信託会社から受けていた融資に関して、6億4500万元(約116億円)の支払いが期限通りにできず、デフォルトが発生した。

同19日、「中国奥園集団」は20日と23日に満期を迎えるドル建て社債10億8600万ドル(約1248億円)を償還できないと発表した。

各地で不動産が「白菜価格」に転落

さて、中国の"3線都市"(比較的発達した中小都市)、"4線都市"(3線都市ほどは発達していない中小都市)で不動産が値崩れを始めた。おそらく、不動産バブルが弾けたのではないだろうか。

代表的なのは黒竜江省鶴崗市で、今般の不動産の値崩れは「鶴崗化」(*1)と呼ばれる(値段は「白菜価格」という)。

同市では、55平方メートル規模の中古2LDKが3万元(約54万円)で手に入る。2012年、鶴崗市は国務院(内閣)から「資源枯渇都市」に指定され、昨年、最初の"財政再建"地級市(中国の行政単位の一つ。地区、自治州等と共に二級行政区)となった。

北京師範大学不動産研究センターの董藩主任は、「鶴崗市では産業が衰退し、人口が流出することによって、現地の住宅価格はさらに下落するだろう」「最も良い解決策は同市から離れることだ」との見解を示した。

他に「鶴崗化」した都市は、黒竜江省双鴨山市、遼寧省鉄嶺市、同阜新市、寧夏回族自治区石嘴山市、甘粛省玉門市、同張掖市、雲南省箇旧市、広西チワン族自治区百色市等(*2)である。

例えば安徽省淮南市では、50~60平方メートルの中古2LDKが4~5万元(約72万円~90万円)で購入できる。また、同市内では総額10万元(約180万円)以下の住宅が54戸を数えるという。

「鶴崗化」現象は、東北地方から西北地方と西南地方に広がり、小都市の住宅が「白菜価格」で売られている。今や「鶴崗化」は裕福な長江デルタにまで広がった。

投機目的で建てられた「34億人分」のマンションが一斉値崩れを起こす

なぜ、このような事態が起きているのか。その原因はマンションの"供給過多"にあるのではないだろうか。

かつて、我が国でもリゾート地に多くのマンションが建築された。有名スキー場近隣地域等である。新築当時は、数千万円の値がついたマンションが、今では、文字通り「白菜価格」で売却されている。

マンションの維持費(年間数十万円)が高いので、それを手放す所有者が少なくない。ただ、日本の場合、この現象は今のところ、主にリゾート地に限定されているのではないか。中国の場合、それが全国規模で起き始めた。

一般に、日本では年収の5~6倍の戸建てやマンションを購入する。だが、中国では、一部の人は年収の30倍以上でマンション購入(*3)するという。我が国では、到底、あり得ないことが中国で起きている。

これは、マンションが"投資"ではなく、"投機"対象になっているせいではないだろうか。中国全土に不動産建設が行われ、すでに34億人も住めるマンションが建てられている(*4)。そのため、"鬼城"(ゴーストタウン)が全国に点在する。

実は、地方政府は、財政を補うため不動産事業に関与してきた。政府系ディベロッパーも少なくない。仮に、それら政府系ディベロッパーが破綻したら、地方政府の赤字が急増するに違いない。

最終的には、中央政府が地方政府の赤字を補填しなければならないだろう。目下、北京政府の財政赤字はGDPの300%(*5)と言われるが、今後、ますます厳しい状況に陥るのでないだろうか。

(*1)2022年2月14日付『RFA』(米議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。民間の非営利法人が運営)「長珠江デルタでも鶴崗白菜価格の急落、不動産市場の崩壊が全国に拡散」
(*2)2022年2月13日付楼市黄大大「中国の小都市の住宅価格の鶴岡化は、すでに長江デルタにも広がっているのか?」『中国瞭望』(海外の中国人オンラインメディアで、諸外国で影響力のある中国語ポータルサイト)
(*3)2021年10月15日付『zakzak』「習政権は不動産バブル崩壊を止めるか 住宅価格が標準世帯年収の30倍以上に達する都市も」
(*4)2015年12月23日付『サーチナ』(ポータルサイトで、名称はサーチ <search>とチャイナ <China>からの造語)「中国の『鬼城』(ゴーストタウン)50カ所以上、破たんに突き進む不動産開発=青島大教授が警鐘」
(*5)2019年7月18日付『ロイター』「中国の債務がGDPの300%を突破、世界全体の15%に:IIF」

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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