《本記事のポイント》

  • 数千元で売られた少女
  • なぜか変わる政府の見解
  • 中国で女性誘拐はオウム鳥の密売より刑が軽い!?

目下、北京では冬季オリンピックが華やかに行われている。しかしそれとは裏腹に、中国国内では驚くべき事件がネットを賑わせている。江蘇省徐州市で最近、「8人の子供を持つ母親」の存在が明るみになったと、一部メディアが報じたのだ。

今日の中国で、子供を8人産むことは常識では考えられない。なぜなら、1979年から2015年まで「1人っ子政策」が行われていたからである。ところが、そういう母親が突然、現れたのである。今の中国共産党政権下では、その事自体が大スキャンダルだろう。女性の名は李宝という。

数千元で売られた少女

以下、李正寛による2月6日付『中国瞭望』記事「『徐州の8人の子供の母親』が中国『全盛期』の黒い幕を開ける」の一部から、事件の経緯を紹介しよう(『中国瞭望』は、代表的な海外の中国人オンラインメディアで、諸外国で影響力のある中国語ポータルサイト)。

ネットユーザーらは、李宝の子供時代の写真と投稿ビデオに登場した「8人の子供の母親」を比較した。2人とも鼻の角にホクロが一つある。また、ネットユーザーが口、顎、さらには眉間の長さや眼球の大きさまで測定した結果、2人は驚くほど似ているという。2人が同一人物であることは、ほぼ間違いない。

ビデオの中で、李宝は薄暗い狭い部屋に監禁にされ、鉄の首輪をはめられ、鎖で繋がれていた。また、寒いにもかかわらず、一枚の薄い服しか身に着けていなかった。髪はボサボサで、口や歯は清潔ではなかった。そして精神も病んでおり、まともに話せない状態である。

李宝は1984年、四川省南充市に生まれた。父親は李大忠で、かつてチベットの武装警察に所属していたが、数年前に亡くなったという。

彼女は96年12月に失踪している。小学6年生の時、親に数千元で売られたらしい。そして98年に、現在の監禁主である董志民とのもとにやって来た。その後、董家の父親と息子の董志民、それともう1人の兄弟の3人から長年にわたり、凌辱されたのである。

李宝は県政府の役人にまでレイプされていた。そのため、誰が8人の子供達の父親かわからないという。

徐州市の「8人の子供の母親事件」が明るみに出た直後、中国のジャーナリストであるトウ飛は微博で、「同じ村には李宝と同時期に来た女性がいて、やはり鎖につながれ、もっと悲惨な状況だ」という情報を流した。その女性は、20年以上も服を着ることがなく、布団に包まれたままで、非常に貧しいという。

なぜか変わる政府の見解

今年1月28日、徐州市豊県の県委員会は、ネット世論に押され、李宝に関する「全面的調査」を行った。その結果、李宝は董志民と「合法的」に結婚し、誘拐・売買という事実はなかったと発表している。

だが、ネットユーザーらはそれに納得せず、「ならばその"結婚証明書"を出せ」と県委員会に証拠開示を求めた。

すると1月30日、同委員会は、今度は別の口実を設けたのである。女性の正体は(李宝ではなく)楊という別の人物であり、豊県歓口鎮へ流れて来た際、董志民の父親に慰留された。そして、董志民と一緒に暮らすようになったと釈明している。

そこでネットユーザーらは、同委員会にDNA鑑定を求めようとしたが、まともな鑑定結果は得られないだろうとして、要求を引っ込めた。

中国で女性誘拐はオウム鳥の密売より刑が軽い!?

さて、フランスの国営放送「ラジオ・フランス・アンテナショナル(rfi)」の2月6日付記事「徐州豊県の性奴隷事件はネットでの津波を引き起こす、中国には公式に黙認された奴隷制度が存在する」によれば、中国では年間100万人が失踪し、そのうち児童は20万人だという。同記事はこの「8人の子供の母親事件」について、明らかに婦女誘拐の犯罪であると糾弾した。また、8人の子供の父親は、別の犯罪である強姦罪の疑いが強いと指摘している。

一方、ドイツの国営国際メディア「ドイツの声(DW)」は「長平観察: 中国政府は人身売買においてどのような役割を果たしているのか」(2月7日付)という記事を掲載した。

それによれば、この「8人の子供を持つ母親」に関するニュースは、すでに16億人に読まれているという。著名な法律専門家、羅翔は中国共産党統治下、人身売買が横行している理由について、中国の法律では女性誘拐は3年の刑である。ところが動物のオウム密売罪(希少保護動物密売罪)は5年の刑で、女性誘拐はオウムの密売よりも刑が軽いと指摘した。

他方、「南都週刊」元副編集長の長平は次のように喝破した。

「なぜ政府は女性や子供の誘拐を放任しているのか? それは、女性を商品化・道具化し、女性と子供の基本的人権を無視するのが、家父長制社会に内在する本質だからである」

今回の件は、中国全体の問題と体質を炙り出していると見るべきだろう。

澁谷-司.jpg

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

【関連記事】

2022年1月31日付本欄 中国の「クーデター」未遂事件と党内闘争【澁谷司──中国包囲網の現在地】

https://the-liberty.com/article/19195/