《本記事のポイント》

  • 空軍上将「クーデター」が発覚か?
  • 軍強硬派も習近平の能力不足に見切り?
  • 党ナンバー3失脚説から透ける激しい党内闘争


一昨年の初春、中国・天津市で「クーデター」が発生したという(「戦闘機が天津市で墜落 中国軍東部戦区の『反乱』か」2020年3月7日付『看中國』)。その戦闘機には、ある軍人が乗っていたが、ミサイルで撃墜されている。

空軍上将「クーデター」が発覚か?

他方、21年12月下旬、今度は空軍上将、劉亜洲(りゅう・あしゅう)による「クーデター」が発覚した。劉亜洲は、李先念元国家主席の娘、李小林(中国人民対外友好協会会長)と結婚している。さらには中央紀律検査委員会委員や人民解放軍国防大学政治委員などを歴任した。

オーストラリア在住の民主活動家・袁紅冰(えん・こうひょう)は昨年暮れ、劉亜洲が「軍事クーデター」を起こしたが、結局、未遂に終わったと指摘している(「劉亜洲逮捕の真相 太子党の中核は反習近平か?」22年1月3日付『大紀元』)。後述するように、劉亜洲は、習近平主席に対し不満を抱いていたという。

ただ袁紅冰は、劉は"逮捕"されたのではなく、当局に"軟禁"された状態だと語っている(「劉亜洲の逮捕の真実、中核の太子党は反習近平か?」22年1月4日付『大紀元』)。

軍強硬派も習近平の能力不足に見切り?

元来、劉亜洲は台湾の「武力統一」を唱えるなど、軍の「強硬派」として知られていた。ところが袁紅冰によれば、近年、劉の考えが若干変わったという(同)。以下がその主旨である。

中国共産党は何十年もの間、台湾の統一を目指してきた。だが、大半の台湾人は同党による中台統一を拒否していることが明確化している。劉は同党の「平和的統一」作戦を失敗だと思った。そのため、「武力統一」が唯一の選択肢だと考えている。同時に、この台湾に対する「武力統一」作戦は、中国共産党の運命を賭けた博打であり、この戦いは必然的に同党と日米間で、決定的な対決を引き起こす。

かつて劉亜洲は、自身が企画責任を務めたプロパガンダ映画の中で、中国共産党と米国間の決闘はすでに開始されたという見方を示した。そして、中国が米国に代わって新しい"国際秩序形成者"(=世界覇権国家)になるためには、台湾の「武力統一」で、必ず日米との生き残りを賭けた決戦に直面するだろうと示唆した。

このように劉亜洲は、台湾の「武力統一」を提唱している。けれども、習近平主席には大きな賭けや潜在的な決戦に挑む能力はなく、戦いに勝つための戦略的ビジョン、大胆さ、野心もない、と劉は考えた。そこで今秋の第20回党大会で習近平主席の再選を阻止し、総書記を別の人物に変えたいと願った。

実は、劉亜洲は"逮捕"直前、曾慶紅(もともと「江沢民派」の大番頭だが、目下、江沢民の健康が思わしくないので、事実上同派の首領)と王岐山国家副主席に会ったという(「曾慶紅と王岐山が劉亜洲を助けるために乗り出す」21年12月31日付『Gnews』)。

たとえ曾と王が劉の「クーデター」に直接関わっていなくても、彼らは暗黙裡に劉を支持していた公算が大きい。

党ナンバー3失脚説から透ける激しい党内闘争

ところで昨年12月31日、全国人民代表大会常務委員長の栗戦書(党内序列は習近平総書記、李克強首相に次ぐ第3位)が、なぜか新年茶話会に出席しなかった。

茶話会直前の24日、栗戦書は全人代常務委員会閉幕時、講話を発表した。また、27~28日の民主生活会も主催している。栗は元気そうだったという。

この栗戦書の茶話会欠席をめぐり、中国内外ではさまざまな憶測を呼んだ。一時、栗の"失脚説"も囁かれた。しかし今年1月11日、第19期6中全会シンポジウムが開催された時、2週間ぶりに栗戦書は姿を現している。

周知の通り、昨年11月の6中全会では、習近平主席を讃える「第3の歴史決議」が盛り込まれた。栗戦書は、その中に江沢民の"腐敗ぶり"を書き入れるよう主張したという。だが、「江沢民派」の張高麗(前第1副首相)が猛反発し、その書き込みを阻止した(「栗戦書は中央紀律検査委員会に告発されたか?」22年1月6日付『大紀元』)。

そこで栗は有名なテニス選手である彭帥(ほう・すい)を利用し、張高麗の彭に対する"性的暴行事件"をSNSへ投稿させたという(同)。ただしその後、彭選手の動向は当局の管理下に置かれ、彼女の本当の様子は不明である。

一方、今年1月8日、習近平政権は2人の大物を失脚させた。現在、チベット自治区の張永沢副主席は最高人民検察院によって拘束され、取り調べを受けている(「チベット自治区政府副主席、取り調べ中」22年1月8日付『新華社』)。同様に、「中国人寿」董事長(理事長に相当)の王浜も逮捕され、取り調べを受けている(「中国人寿集団董事長王浜が、重大な規律違反の疑い 中央紀律検査委員会が調査中」1月10日付『ロイター』)。

ひょっとすると、「反習近平派」による栗戦書"失脚説"流布を機に、「習近平派」が「反腐敗運動」の名の下、反撃に出た可能性がある。これは、第20回党大会を前に、共産党内の権力争いがさらに激化する前触れかもしれない。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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