《本記事のポイント》

  • "高齢者手当申請名簿"から突然消えた15万人の多くはコロナ死だった!?
  • 次々出てくる北京当局の"過少申告"疑惑
  • 14カ国と陸で国境を接する中国が感染を防げるはずがない!?


北京五輪を目前に控え、習近平政権は「ゼロコロナ(コロナ封じ込め)」政策を実施してきた。

しかし昨年12月23日、陝西省西安市(人口約1300万人)でコロナが広まり、「ロックダウン」が実施された。また、今年1月2日に河南省禹州市(人口約110万人)で、そして同13日に天津市(人口約1390万人)でも、「ロックダウン」が行われている。なお、中国の「ロックダウン」は、当局の規制が厳しいため、深刻な食糧不足に陥る場合がある(例:雲南省瑞麗市)。

そうした中で年明け、「フォーブス(Forbes)」にジョージ・カルフーン(George Calhoun)の「北京は意図的に中国のコロナ死亡率を過少報告している」(2022年1月2日付)という刮目すべき論考が発表された。

"高齢者手当申請名簿"から突然消えた15万人の多くはコロナ死だった!?

実は1年近く前、「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」にも、「湖北省高齢者手当申請が15万も激減 武漢肺炎の新たな証拠隠蔽疑惑」(21年2月15日付)という記事が掲載されている。まず、その内容を紹介しよう。

湖北省民政庁の資料によると、20年第1四半期、全省で80歳以上(神農加山区は75歳以上)の15万人の名前が、突然、"高齢者手当申請名簿"から消えた。だが、政府はその説明を拒否しただけでなく、メディアや民間人による葬儀統計データの収集も厳禁したという。

今なお、北京政府は国内でのコロナ死を4600人余りと公表している。けれども、一昨年の1月から3月の間、湖北省(省都は武漢市)だけで、約15万人(自然死や事故死・病気死を含む)も死亡した公算が大きい。

次々出てくる北京当局の"過少申告"疑惑

次に、カルフーンの長い論文だが、重要な部分を抄訳してみよう。

第1に、米国では82万5000人以上がコロナで死亡した。一方、中国の公式のコロナ死亡者数は4636人とされている。両国の死亡率の差は衝撃的である。中国政府は人口10万人当たりコロナ死亡率が0.321人だと発表した。米国のコロナ死亡率は人口10万人当たり248人なので、中国と比べ800倍近くも多い。

第2に、英誌「エコノミスト」の研究モデルによれば、中国の公式コロナ死亡率は実際の170分の1である。「エコノミスト」は、中国におけるコロナ死亡者の本当の数は170万人程度ではないかと推測している。中国の累積死亡者数は少なくとも米国の2倍である可能性が高い。

第3に、2021年2月、「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical Journal)」に、武漢市の死亡統計全体を分析した論文が掲載された。その中には、北京当局の"過少申告"を示唆する部分がある。武漢市のコロナ感染致死率が、19年のある一時期だけ5.6%と高かった。これは、米国におけるコロナ感染致死率、約1.5%の約4倍近くとなる。

だが、コロナ発生から2年、湖北省以外、13億人の中国人のうち、コロナ死亡者はわずか200~300人である。人口10万人当たりの死亡率は0.002人と、米国の死亡率の12万4000分の1だった。

14カ国と陸を接する中国が感染を防げるはずがない!?

第4に、日本(一人当たりのGDPが4万1000米ドル)と韓国(同3万2000米ドル)は、中国にとって重要な貿易相手国である。他方、シンガポール(同6万米ドル)は厳しく管理された都市国家である。3カ国はいずれも欧州や北米に比べ、コロナ死亡率が10分の1から20分の1低く、コロナ抑制政策に成功している。しかし中国は、この3カ国より更に30分の1から50分の1も低いコロナ死亡率である。

日本とシンガポールは島国であり、陸の国境がない。韓国は軍事的に閉鎖された国境が1つあるだけだ。これら3カ国は、中国(大陸国家であり、陸上国境を共有する多くの隣国を持つ)と異なり、海外からの交通を容易に規制できる。現在、中国には北朝鮮からの難民が何十万人もいる。ビルマからの難民は数万人にのぼる。あまた、ベトナムからの密入国や人身売買は常態化している。

中国は近隣14カ国と陸で国境を接する。その総距離は1万3000マイル(2万800km)以上で世界一国境が長い。中国はどのように流入するコロナを抑えているのだろうか。

実際、韓国のコロナ死亡率は人口10万人当たり10.8人で世界最低水準である。それにもかかわらず、中国のそれは韓国の34分の1だという。

第5に、ニュージーランドは海に囲まれているという自然の利点、及び、政府の賢明な政策の結果、10万人当たりの死亡率が1.03人に過ぎず、先進国中、最も低い死亡率となった。ところが、中国のコロナ死亡率はニュージーランドと比べても、3分の1だという。

以上の不審点から推測するに、習政権は、コロナ死亡者数の隠蔽を謀っている可能性が極めて高い。

ではなぜ北京は死亡者数を隠すのか。これは、社会主義体制の"宿痾"なのだろうか。それとも、「孫子の兵法」(敵側に"偽情報"を流す)を重んじる中国人故なのだろうか。

澁谷-司.jpg

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。


【関連記事】

2022年1月17日付本欄 中国が武力統一したら7割の台湾人が戦う──世論調査から分かる高い祖国防衛意識【澁谷司──中国包囲網の現在地】

https://the-liberty.com/article/19134/