《本記事のポイント》

  • 幕を閉じた「1国2制度」
  • 親中派勝利させるための制度改革
  • 親中派勝利により"重要法案"が次々通過か

12月19日、香港では立法会選挙(第7期議員を選出)が行われた。

2020年7月末、林鄭月娥・行政長官は、新型コロナの影響を考慮し、選挙を翌年9月へと1年延期した。さらに21年5月、立法会での選挙制度変更に伴い、選挙を同年12月に再延期している。

その間に、選挙制度が骨抜きになってしまった。

幕を閉じた「1国2制度」

1980年代前半、中英香港返還交渉の際、トウ小平は香港の「1国2制度」を唱えた。1997年7月、香港はイギリスから中国へ返還されたが、同地域の「1国2制度」は50年間不変の「国際公約」のはずだった。

ところが、香港に対する中国共産党の影響力が徐々に浸透し、香港は「1国1.5制度」へと変貌していく。そして、今日、香港は「1国1制度」の中国本土並みとなった。

昨20年6月30日夜11時、「香港国家安全維持法」が制定・施行された(日本時間では7月1日午前0時)。これで、香港ではほぼ自由・民主が形骸化したと言っても過言ではないだろう。事実上、香港の「1国2制度」は、23年間で幕を閉じている。

選挙制度変更も、こうした動きの一環だ。

親中派勝利させるための制度改革

19年11月、香港区議会議員選挙(地方選挙)で、「汎民主派」が479議席中389議席を獲得した(民主的な選挙で選出された452議席の他、新界9区の原住民代表は27議席)。

いくら地方議会と言っても、全体の81.2%も「汎民主派」が占めるようになった。おそらく、習近平政権は「建制派」(=「親中派」)の大敗という結果に衝撃を受けたのだろう。そこで、北京は、次期立法会選挙では何が何でも「建制派」を勝利させようと決意したのではないか。

21年3月、全国人民代表大会常務委員会は、香港立法会の選挙制度見直し案を全会一致で承認した。冒頭で触れたが、この決定を受け、5月27日、立法会は選挙制度変更条例案を可決した。

主な変更点は以下の通りである。

第1に、今までの70議席を90議席に増やした。

第2に、立候補者が「国家安全維持法」に違反していないかどうかを審査する「資格審査」を導入した。「汎民主派」を排除するためである。

第3に、一般市民による直接選挙枠が35議席から20議席に減らされた(ただ、第5期・第6期立法会選挙で、職能団体<各種業界団体>枠の区議会議員から選出される5議席も、直接選挙に近い方式だった)。

第4に、28の職能団体枠30議席は"変更なし"となった。

前回の職能団体枠では、無投票で当選した議員が12人もいた。だが、今回は、無投票とはならない見込みである。他方、前回、漁農業界から2人立候補したが、98票で当選している。また、航運交通界も2人立候補したが、126票で当選した(直接選挙枠で当選するためには、普通2、3万票必要である)。

第5に、1500人の「選挙委員会」が40人の議員を選出する。香港返還後、第1期立法会選挙では10名、第2期では6名の議員を選出した。だが、第3期からその選出枠がなくなった。

これまで、1200人で構成された「選挙委員会」は香港行政長官を選出している。ちなみに、約300人余りは「汎民主派」で、残り800人以上は「建制派」だと言われていた。

今年9月20日、選挙管理委員会は、行政長官や40人の立法会議員を選ぶ権限のある「選挙委員会」委員(定数1500人、欠員52)の当選者を発表した。中国共産党は、ここでも立候補段階から「汎民主派」候補を排除している。

その結果、民主派は0人、「中間派」(=「非建制派」)1人、残る1447人はすべて「建制派」で占められた。

以上のように、立法会90議席中、直接選挙で20議席、「建制派」の多い職能団体から30議席、ほとんど「建制派」の「選挙委員会」委員によって40議席が選出される。

ただし、既述の如く、今回、立法会選挙には、「資格審査」が導入されたので、著名な「汎民主派」の人達は、ほとんど出馬していない。今回、「汎民主派」・「中間派」と称する立候補者は合わせて13人だという。だが、彼らが本当に「汎民主派」・「中間派」なのかどうか不明である。

そのため、今度の立法会選挙は、直接選挙枠の投票率が前回(58.28%)を大幅に下回り、30.2%に終わった。

「汎民主派」支持の有権者が投票所へ足を運ばなかったからであろう。

結局、立法会90議席中、大半が「建制派」で占められた。習近平政権の思惑通りである。

親中派勝利により"重要法案"が次々通過か

実は、前回の立法会(第6期)では、優勢だった「建制派」すら、全体の3分の2以上を占めていなかった(70議席中、40議席)。そのため、重要法案(3分の2以上の賛成が必要)が成立しなかった事例がある。しかし、今後は「建制派」が大多数を占めるので、重要法案もスムーズに通過するようになるだろう。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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