ロシアの極超音速ミサイル「アヴァンガルド」のイメージ動画(https://youtu.be/o-5UEq32-wc)より。

《本記事のポイント》

  • 中国は極超音速兵器で米軍をアジアから退かせる腹積もり
  • 中国の野望を砕くオーカスの役割
  • 北朝鮮も極超音速兵器で日本を脅せる

中国のみならず北朝鮮も、ミサイル防衛が不可能な極超音速兵器で王手をかけてきている。前編に続き、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに、実戦配備されている極超音速兵器について聞いた。

(聞き手 長華子)

中国は極超音速兵器で米軍をアジアから退かせる腹積もり

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──前編では中国が開発する極超音速兵器と、増強しつつある核兵器の戦略的な意味合いについてお話をいただきました。

河田(以下、河): 今回は、中国が配備する短中射程の極超音速兵器の脅威についてお話しします。これはDF-17と呼ばれる準中距離弾道ミサイルです。

2020年10月18日の環球時報は、現状で約100発のDF-17を保有し、今後数年のうちに生産と配備を進める予定だと報じました。

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(US office of the Secretary of Defense, "Military and Security Developments Involving the People's Republic of China", Sep01 2020)

DF-17の射程は1800~2500kmで、このミサイルの先端に極超音速滑空体が搭載されています。上の地図を見ると分かると思いますが、中国の中央からミサイルを発射したとしても、台湾や日本の沖縄を含む第一列島線内の地域に到達します。

極超音速兵器は低空を上下左右に機動しながら飛翔して最終的に目標に突入するため、日本のミサイル防衛システムでは迎撃が極めて困難です。中国がこのミサイルを使えば確実に日本に甚大な被害が発生し人命が失われます。

では、中国はこの極超音速ミサイルをどのように使うつもりでしょうか。

中国はDF-17を増強していますが、武力攻撃の初期に奇襲的に使用するのではないかと想像されます。

たとえば台湾有事の際、DF-17に加え、DF-21Dなどの対艦弾道ミサイル(空母キラーと呼ばれる)と併用しつつ、東アジアの米軍や自衛隊の司令部などの施設や基地、停泊している空母や艦艇、駐機中の航空機、重要施設などを奇襲攻撃することが考えられます。

初期段階で頭脳である司令部が破壊されてしまえば、現場部隊は統一的な行動ができなくなり、極めて大きな致命傷となります。

軍事的には第一に狙われる目標は司令部であり、さらには目や耳となるセンサーなどです。そしてその次に攻撃される目標は、空母や戦闘機部隊などの主力となる戦力でしょう。

これらが消耗してしまえば、台湾防衛にかけつけるべき米軍や自衛隊に大きな穴が生じます。

このように、私は米軍などを戦争に介入させないための、中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」のために、極超音速ミサイルを使う腹積もりだと見ています。

さらに2020年の米議会調査局の報告には、グアムを射程範囲に収めるDF-26や空母キラーとされるDF-21Dに極超音速滑空体(HGV)が搭載される可能性があるとされています。これらに極超音速滑空体を付け替えると、現状ではミサイル防衛は機能しなくなるでしょう。

つまりアメリカが防衛できない極超音速滑空体はグアムからアメリカ軍を撤退させる圧力となりますし、中期的にはアジアから米軍を駆逐することが中国の目標でしょう。

中国の野望を砕くオーカスの役割とは

──この点から考えると、9月に発足した米英豪による新安保の枠組みである「オーカス(AUKUS)」はかなり重要になってくるのではないでしょうか。

河: オーカスには2つほど狙いがあるのではないかと考えています。

アメリカはオーカスの枠組みを通して、オーストラリアに原子力潜水艦の技術と巡航ミサイルのトマホークを提供するとしています。

原子力潜水艦は隠密行動が可能で極めて発見されにくく、敵の不意を突いて大打撃を与えることのできる海軍の切り札的存在です。

もし中国による軍事行動の予兆を掴んだら、米豪共同の先制攻撃によって中国の司令部や極超音速ミサイルを含む発射基地などを戦争の初期段階に壊滅させることができるでしょう。

このように最初に「接近阻止・領域拒否」に穴をあける目的があるというのが一つ目です。

中国の防御網の穴の空いた部分に米軍などの主力部隊が突入し、中国に反攻作戦を行います。

ただ一方、日本としては手放しで喜んでよいとは思いません。中国による極超音速ミサイルの脅威は大きなものであることは事実です。中国側の奇襲攻撃を許せば、第一列島線上に位置する日本は一方的に攻撃を受けるでしょうし、近い将来、グアムも中国の極超音速兵器の攻撃圏内に入る恐れがあります。

そこで米軍は、より後方の基地を確保しておきたいというリスク分散に駆られます。つまりオーストラリアに、東アジアが中国の影響下に置かれた場合の前線基地として保険をかけることで、アメリカのアジアへの影響力を残しておきたいという思惑が働かないとは限りません。これがAUKUSの未来の可能性です。

他方中国は、日米の分断を画策してくるでしょう。その一つが極超音速ミサイルで、今後、東アジアに駐留する米軍がより危険に晒されるようになれば、オーストラリアの米軍基地の重要性が相対的に高まります。そうなれば中国の日米分断戦略は前進ということになるでしょう。

日本の戦略上、日米同盟を堅持し共同で中国を抑止・対処することは、死活的国益として当然のことですが、一方でアメリカ頼みではいけませんし、ましてや米英豪のオーカス頼みでもいけません。

ですから日本も原子力潜水艦を配備すべきです。

岸田首相は「敵基地攻撃能力」に前向きですが、オーストラリアのように潜水艦から敵基地を攻撃できるミサイルの発射能力を保有すること、つまり日本が中国との戦いに腹を決めることで、米軍も日本にとどまり、また中国の武力攻撃を抑止していけるものと考えます。

現在の状況は日本に「武士道精神の復活」を迫るものと言っていいでしょう。

北朝鮮も極超音速兵器で日本を脅せる

──北朝鮮も極超音速兵器を保有しています。

河: 2019年に実験したKN-23が最初に保有した極超音速ミサイルです。これはロシアのイスカンデルMに酷似した兵器で、違法に技術を盗み出した疑いがあります。

その後も北朝鮮は着々と技術力を上げています。

KN-23の改良型の発射を3月に行い改良を重ねているので、いずれ日本に届くミサイルもできるでしょう。

注目すべきは今年の衆院選中の10月19日に発射された潜水艦発射型の弾道ミサイル(SLBM)です。

これまでは水中に固定した発射台から試射するパターンが多かったのですが、今回は本物のコレ級潜水艦からミサイルを発射したのではないかとされています。

このSLBMは極超音速滑空ミサイルで、600kmの射程距離があります。沿岸部から撃つなら日本には届きませんが、日本海の真ん中から撃てば届きますし、極超音速ミサイルなら、日本は間違いなく迎撃できません。もしこのSLBMに核弾頭が搭載されたらどうなるでしょうか。

北朝鮮の主な開発意図は、国家の外交カードを強化し、また国の存続をかけて「脅し」で援助を引き出すなど、交渉材料をつくることにあるとは思います。

しかし、北朝鮮でさえ日本のミサイル防衛システムに対する対抗措置を持つ時代に入ったことに、日本人は目を覚まさなければなりません。

北朝鮮であっても、日本を「震え上がらせることができる」と恫喝できるレベルに到達したのです。

ロシアはさらに進んでいて、空気を取り入れながら加速し、極超音速滑空体より遠くまで飛ぶ「極超音速巡行ミサイル」(HCM)を開発しています。

極超音速滑空体(HGV)は、エンジンがついていません。低いところを滑空していると、空気抵抗から、どんどんスピードが落ちてしまいます。

これに対し極超音速巡行ミサイル(HCM)は、エンジンがついているのでより低い高度を長距離滑空し、敵から見つかりにくいのが利点です。

このように日本は極超音速ミサイルを持った国に囲まれていますので、強烈な危機感を持つべきでしょう。

ただ日本の防衛省も島嶼防衛用高速滑空弾を開発中です。尖閣諸島などの島嶼防衛と銘打っていますが、恐らく長射程化が可能で、沿岸部にある敵ミサイル基地などを破壊するのに最適ではないかと思います。まだ配備はかなり先の予定ですので、日本はこの開発を急ぐ必要があります。

日本を取り巻く国々が、日本が防衛不可能な極超音速兵器を実戦配備する中、これらを抑止するためにも日本の防衛体制の強化は待ったなしなのです。

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の軍事学などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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