《本記事のポイント》

  • 中国の統治モデルは西側の民主主義より優れていると喧伝
  • 民主主義を転覆する3つの方法
  • 民主国家は「民主主義」の魅力を売り込め


前回本欄( https://the-liberty.com/article/18771/ )で、善悪の判断から逃げる人間の堕落を"拠り所"として、世界中に中国の全体主義的体制が"繁殖"し始めている点について触れた。12月には民主主義サミットが行われる予定だが、これは、この"繁殖"を止めるものでなくてはならない。では、中国は全体主義的統治をどう輸出し、民主国家を弱体化させているのか──。

この点を論じているのが、フォーリン・アフェアーズ誌に掲載された米ウィルソンセンターのグローバルフェローのチャールズ・エデル氏と米国大西洋評議会の中国問題担当理事のデービッド・シュルマン氏による「中国はどう権威主義を輸出するのか(How China Exports Authoritarianism)」と題する論文だ。

筆者は中国の体制は権威主義ではなく全体主義だという認識なので、この点では両執筆者と立場を異にするが、中国が普遍的価値観を転倒させ、オセロゲームのように世界を民主主義的統治から全体主義的統治に塗り替えている様子をよく捉えた論文である。以下に、その抄訳を紹介する。

中国の統治モデルは西側の民主主義より優れていると喧伝

  • 海外での中国共産党と中国の影響力を高めるために2021年7月、習近平国家主席はスピーチで、権威主義的統治の"美徳"を賞賛し、海外にも伝えるべきだと主張した。

  • 習氏は、中国の非自由主義的な統治モデルを西側の統治モデルより優れたものと見なし、中国の叡智を人類に対する貢献であるとして、世界に広めることを明言。

  • 習氏は2017年の党大会で、中国経済の成功は、繁栄への道は自由な民主主義を通さずして実現し得ることの証左だと述べた。

  • これは国民の民主化の要望に耳を貸さず、経済的成功という果実を手にしたいリーダーにとって魅力的なメッセージだ。

  • 独裁的なリーダーを各国に据えていった、冷戦時代のソ連のやり方とは異なるが、権威主義的統治の方が優れた統治モデルであると声高に推進する中国のやり方は、旧ソ連同様、民主主義への挑戦である。

 

 

民主主義を転覆する3つの方法

  • 中国の民主主義を転覆させるやり方は、大きく3つに分類できる。

  • 1つ目は、先進国において「友にはワインを、敵には散弾銃を」という具合に、友人にはマーケットのアクセスを許し、中国の利益に反する者(政府や政治家、反体制派の活動家、学者等)には経済的に打撃を与えたり、脅したりして"中国の見え方"をコントロールする。

  • 2つ目は、主に途上国における戦略だ。脆弱な民主国家の腐敗したエリートたちに、中国の技術をもってすれば市民を抑圧し、権力の座に無限に留まれるように支援している。そのために、世論操作、中国式のサイバーセキュリティーなどに関する大規模なトレーニングプログラムを提供。ウガンダやザンビアなどでは、中国からの技術供与と訓練を受け、国民の総監視を行えるようになっている。

  • (中国的統治は)当然ながら国家権力を監視する市民社会や健全な反対意見を許容しない。異議を唱えることは、国家建設の妨害行為であり、野党は、政治参加ではなく"国家転覆"という位置づけとなる。

  • 3つ目は、国際機関における影響力である。既存の普遍的価値を、「開発の権利」「インターネット主権」といった概念に置き換え、国際的な公式文書に正式に記そうとしている。

  • 人権についても独自の見解を推進している。個人や少数派の権利の無視することを、地元当局の都合で正当化。経済的・社会的権利を守る名目から、市民や政治参加の権利は、二次的なものにすぎないものとされる。

  • これらは既存の統治に対する規範、ルール、倫理に対する攻撃である。

  • 中国共産党の挑戦から脆弱な民主国家を守るには、西側の協調と資源に裏打ちされた努力が必要だ。独立したメディアや、市民社会建設の支援、腐敗防止やマネーロンダリングの対抗措置、民主的な技術の提供を行わなければならない。

  • 民主主義が国際的な魅力を取り戻すには、先進国の内部で、市民が中心的役割を担う民主主義的統治が機能することを示すことだ。

  • また先進国の民主国家は、言論の自由の原則を損ない、政治プロセスに干渉し、政財界のエリートを利用する中国共産党の手法を暴露しなければならない。

  • アメリカは国内外で民主主義の精神を涵養し、中国を押し戻さなければならない。そうでなければ、現在の国際的秩序を危険にさらし、未来は民主国家にとって安全ではない世界がやってくる可能性がある。

 

権力は市民の「同意」から生まれる

日本やニュージーランド、カナダなどの先進国の政財界では"親中派"が幅を効かせ、経済と政治とのどちらを取るべきか煮え切らない態度を続けている。善悪の判断を先延ばしにし、国が漂流している状態だ。また途上国ではミャンマーやカンボジアなど腐敗した為政者を通して、中国は着実に地歩を固めつつある。人権問題については、「内政干渉」を持ち出して、批判を寄せ付けない構えである。

その中国の論理に対して、両執筆者が主張するように、民主国家は一致団結して協力しなければならない。しかし、このほどアメリカで開催された日米豪印「クアッド」首脳会合の共同文書に、コロナの発祥源についての追及も、中国の核の脅威も、さらにウイグル等の人権問題に対する糾弾も盛り込むことができなかった。

そのような宥和的なものであってよいはずがない。中国の台頭にとって不都合な、リベラルな世界秩序を転倒させようと、グローバルなレベルで全体主義を輸出しているのが中国である。一部の有識者の想定とは異なり、中国は腐敗した途上国の為政者を通して、全体主義的な統治体制を輸出し、脆弱な民主国家は次々と中国の手に落ち始めている。

しかし、権力は、国民を黙らせることによって発生するものではない。権力とは人々の政治活動の結果、市民の同意から生ずるものであり、政治活動を抑圧する「国家権力」は「暴力」にすぎない。このためいわゆる「国家権力」の維持には、秘密警察や密告者(監視技術がこれに奉仕する)を、そして異論を持つ者を送り込む強制収容所がセットとなる。

危機的であるのは、このような体制が輸出され世界を覆えば、いずれは公的な領域が世界から失われてしまうことだ。公的領域とは古代ギリシアにおいて、自由で活発な議論を行うことができる「アゴラ」と呼ばれた場所のことであり、この自由な広場(アゴラ)なくして、人間の精神は発達できないとさえ考えられていた空間のことである。

そもそも政治というのは、それぞれの意見を受け止め、吟味し、自らの意見の非妥当性に互いに気づいてゆく営為であり、自分の力だけでは発見できない真理と出会うことである。

したがって合意形成でさえ第一義的な政治の目的ではない。それでは代表的な意見が生まれず、権力も発生しない。もっと言えば「正気とは言えない意見」が、国を覆うことになる。中国の政府高官が時に「失笑を買う」言説を臆面もなく述べるのも、民主的な議論の過程を経ない言論のレベルの稚拙さを示している。またそれが国外でも論駁を受けずに成立すると考えているところに愚かさも露呈している。

民主国家は「民主主義」の魅力を売り込め

古代から民主主義に参加する市民は、いかなる圧力の下にあろうとも、自律的な判断ができなければならないと考えられた。その自律の条件は、「思考できる」ということであった。これは絶対的であり、かつ譲渡することができないものである。

そのために「差異」の顕在化をさせ、各人が「考える人」になる統治の仕組み──三権分立や複数政党制、様々な意見を国民に提供できるメディアを含む──を成熟した民主国家である日本は、全体主義的統治になびく途上国に提供し続けなければならない。

当然これに伴って、民主的な技術の供与やODAの戦略的活用、外国からの投資規制などの法整備面での支援も必要となるだろう。

唯物論国家・中国を啓蒙して解体し、全ての人が政治参加できる未来を強く描き続けることが何よりも求められている。

残念ながら自民党の総裁選の候補者から、このようなメッセージは発されていない。日本の民主主義が、政府権力が肥大化する「大きな政府」に傾斜し、その本来の魅力を忘れかけているからかもしれない。

だが原点に戻り、民主主義の魅力に気づき、その魅力を語ることで、かえって日本の国防力・経済力の強化の正当性を高められるはずである。

そして必要なのは、個別の戦闘で勝利しても、戦争目的で勝利しなければ、我々の文明は敗北することがあるという自覚である。両執筆者が述べているように、イデオロギー上の戦いで勝利しなければ、民主主義が敗北する未来もあり得るのである。

「政治的なるものの目的あるいは存在理由は、至芸としての自由が現れうる空間を樹立し、それを存続させることであろう」(『過去と未来の間』)

政治哲学者ハンナ・アレントはこう述べて、民主主義における政治参加の自由の尊さを謳った。全体主義下で苦しむ人々に本当の意味で救済の手を差し伸べるには、日本を含めた先進国は、民主主義の尊さを今一度自覚し、その魅力を売り込まなくてはならない。

(長華子)

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