2021年11月号記事
日本人サラリーマンを狙う
中国ハニートラップにご用心
あなたの会社の経営幹部、上司、同僚、そしてあなた自身にとっても、他人事ではない。
妖艶な美女が要人に近づき、密やかに機密情報を抜き取っていく──。ハニートラップと聞くと、そうした映画のワンシーンが目に浮かぶ人も多いだろう。しかし、世界では情報戦の一環として当たり前に行われている。
昨年末、米民主党の若手下院議員エリック・スウォルウェル氏(40歳)が、中国の女性工作員の手に"落ちて"いたという特大スクープが全米に衝撃を与えた。女性スパイの名は方芳。カリフォルニアを拠点に有望な地方政治家を狙い撃ちにし、少なくとも2人の市長とは約3年間にわたって恋愛および"男女の関係"にあった(*1)。
カリフォルニア州立大学の留学生として2011年に入国した方氏は、広範囲にわたって工作活動に従事するも、米情報機関の監視下にあった別の中国工作員と密に連絡を取り合う姿から捜査対象となり、15年に中国に逃亡した(*2)。
(*1)米ネットメディア・アクシオスの長期捜査により明らかになった。方氏が関係を持っていた市長のうち、1人はワシントンの会合で方芳を真剣に交際している「ガールフレンド」として紹介したという。FBIの捜査によって、オハイオ州の市長とも"特別な関係"を持っていたことが明らかとなっている。
(*2)「別の工作員」は表向き、在サンフランシスコ中国総領事館の外交官として勤務していた。
米民主党議員事務所スタッフは中国工作員
4年ほどの短い期間で引っかかった最有力ターゲットが、スウォルウェル氏だ。
方氏は、まだカリフォルニア州ダブリン市の市議員だったスウォルウェル氏に接近。同氏が12年に下院議員として当選すると、14年の中間選挙ではスウォルウェル氏再選に向けて資金集めに尽力。同氏の事務所に別の中国人女性工作員を常駐させるほどに、信頼を勝ち取った。
しかし翌15年、米情報機関がスウォルウェル氏に方氏の正体を明かしたことで、関係は絶たれ、方氏は中国に逃亡した。
このまま映画にでもなりそうな事件だが、標的は政治家に限らない。無防備な日本のサラリーマンが中国の魔手にかかり、人生を狂わされる実態に迫った。
右が方氏、左がスウォルウェル氏。スキャンダルが明らかになった今なお、スウォルウェル氏は議員職に留まり、諸外国の機密情報を扱う下院情報特別委員会委員として"活躍"中だ。写真はFacebookより。
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