《本記事のポイント》

  • 世界が見て見ぬふりをし、"加担"してきたウイグル弾圧や強制労働問題
  • アメリカなどがジェノサイド糾弾に動くも日本は……
  • 太陽光パネルにも浮上するウイグル人強制労働

中国共産党によるウイグル人たちへの非人道的な行為は、1949年の新中国の建国より前から始まっていた。

「世界ウイグル会議」によると、「ウイグル人たちは(中略)1933年と1944年に二回独立を果たし、東トルキスタン共和国を建てた。しかし、この二つの政権とも、現地の漢人軍閥や中国共産党の軍事侵入、そして、ソ連の政治陰謀の協力行動によって転覆されてしまった。1949年に、ソ連の援助を得た中国人民解放軍が侵入してきて、最終的に東トルキスタン共和国を征服した」という歴史がある。

この侵略と蹂躙の歴史を、世界は70年近くも見過ごし続けてきたということになる。

そして、共産党のウイグル政策がより苛烈になるきっかけが、2014年4月30日の「ウルムチ駅爆破事件」(死者3人、負傷者79人)である。習近平国家主席が新疆ウイグル自治区へ初視察後、まもなく事件が起きている。習主席は、ウイグル人に命を狙われたと激怒し、その復讐のため、2017年以降、数多くのウイグル人を収容所送りにした公算が大きい。

世界が"加担"してきた強制労働問題

自由を奪われたウイグル人たちは、中国が富を得る道具にされ、そこに世界の企業も知ってか知らずか加担してきた。

オーストラリア戦略政策研究所が2020年に発表した報告書で、世界の大手企業少なくとも82社がウイグル人たちの強制労働によって、直接的、あるいは間接的に利益を得ていると指摘された。日本企業では、ソニー、日立製作所、三菱電機、任天堂、パナソニック、MUJI(良品計画)等と共に、ファーストリテイリングの「ユニクロ」の名前も挙がっていた。

ところが2021年4月、同社の柳井正・代表取締役会長兼社長は、ウイグルに関する質問に対し「人権問題というより政治問題なので、ノーコメント」とした。

7月1日、フランスの司法当局は、NGOなどの告発を受けて、「人道に対する罪」隠匿の疑いで「ユニクロ」のフランス法人など4社の捜査を始めたことを明らかにした。これらの会社に関しては、今年4月、フランスのNGOなどが新疆ウイグル自治区の人たちの強制労働で作られた綿を使っている疑いがあるとして告発していた。

アメリカなどがジェノサイド糾弾に動くも日本は……

7月12日、「バイデン政権」のブリンケン国務長官は、中国共産党によるウイグル人に対する"ジェノサイド(大量虐殺)"を認定した。

ところが我が国の菅義偉政権は、「親中派」の自民党二階派(林幹雄自民党幹事長代理が中心か)や公明党の反対で、"ジェノサイド"を認定できていない。

よく知られているように、日系企業は3万社以上も中国に進出している。日中の経済的つながりが強固なため、おそらく財界も中国共産党によるウイグル人"ジェノサイド"認定に反対しているのではないか。

ちなみに、ウイグルなどでの人権弾圧について意見書を可決した地方議会(埼玉県議会や千葉市議会など)に対し、在日中国大使館が「内政干渉」と抗議したと伝えられている。

7月14日、米議会上院は、新疆ウイグル自治区で製造された強制労働がからむ製品の輸入を禁止する「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決した。米政府は特定の中国企業に対して制裁措置を行っているが、今回の法案は新疆ウイグル自治区で製造されたすべての製品に対象を拡大する。

仮に、米議会下院でもこの法案が通過すれば、ウイグル人が強制的に作らされている製品の取引をする企業は制裁の対象となるだろう。

翌15日、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの岡崎健取締役は決算記者会見で、新疆ウイグル自治区の人権侵害問題について、「縫製工場は第3者の監査機関に入ってもらい、人権に問題がないことを確認している」と説明した。

ただし、この「第3者の監査機関」が中国政府寄りならば意味がない。そもそも中国において、中立的な「第3者の監査機関」による監査が可能なのだろうか。今年1月、世界保健機関(WHO)は「新型ウイルス起源」調査団を武漢市に派遣した。しかし、調査団はほとんど精査できずに終了している。

太陽光パネルにも浮上するウイグル人強制労働

一方、太陽光パネルもウイグル人の強制労働で製作されているという話まで浮上してきた。

6月24日、米国は労働者に対する脅迫や移動の制限が確認されたと人権侵害を指摘し、中国企業「合盛硅業(Hoshine Silicon Industry)」からパネルの部品となるシリコンの輸入を禁止すると発表した。

実際、「主要な原材料であるシリコンの世界生産の約4割を新疆地区が占め、人権問題で供給に影響が出」始めている(7月4日付日本経済新聞「ウイグル問題、太陽光発電に影 パネル主原料5倍に高騰」)。

太陽光パネルは、中国政府から補助金を支給された中国メーカーが市場を支配しているという。近年、我が国は各地にメガソーラーを建設しようと計画している。もし、中国製を導入すれば、一部は新疆ウイグル自治区製という事になるかもしれない。

世界では遅まきながら、さすがにウイグルでの悲劇と向き合う流れができつつある。日本はまだ、目を背けるのだろうか。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

 


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