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日本が署名したRCEP(東アジア地域包括的経済連携)をめぐり、日本貿易振興機構アジア経済研究所の浜中慎太郎・主任研究員がこのほど、「RCEP署名は何を意味するか」と題した論考を発表しました。同氏は、「中国の望む国際経済ルールがRCEPによって実現した。日本の重視したルールは肝心なところで骨抜きにされたものが多いように見受けられる」と指摘し、中国主導の貿易ルールが世界に広がることを懸念しています。

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浜中氏は、「アメリカの政権交代期という隙間をついて、RCEPは中国主導で交渉を一気に妥結させた。中国はASEANの親中国を引き付けたうえで、ASEAN全体が中国にNOを言いにくい雰囲気を成功裏に醸成した。気づけば日本抜きでもRCEPが署名されるような状態になっており、日本としてはNOとは言えない状況に直面することとなった」と交渉の背景を分析。

その上で、RCEPの実態は中国が書いた国際経済ルールであるとし、今回、中国の主張によって、日本の意向が反映されなかった点を2つ挙げています。

1つ目は、「国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)」が盛り込まれなかったことです。ISDSとは、外国に投資した企業が、その国の政策変更により、不利益を被った場合、それを報償するよう求める国際メカニズムを設置することです。中国がこれまで締結した自由貿易協定には本格的なISDSが含まれておらず、RCEPにも盛り込まれませんでした。

2つ目は、「電子商取引に関するデータ・ローカライゼーションの禁止」についてです。データ・ローカライゼーションとは、企業にサーバーの設置義務を課し、データを自国内に保存させることです。しかしそれを行えば、国家権力がデータを容易にアクセスできるようになるため、欧米では慎重な対応が求められています。そのため、RCEPではこれを禁止すると言及されましたが、このルールを破っても、責任を追及する手段が明記されませんでした。

これらにより中国は、自国の政策によって外国勢力から訴えられるリスクを減らしました。そして、中国内で流通する決済データなどを国内にとどめさせつつ、海外に展開する際には、それを有効に活用できるというダブルスタンダードを維持できることになります。

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