「デジタル人民元」の開発を急ぐ中国が、早くも「偽物」に悩まされているようだ。

中国人民銀行・デジタル通貨研究所の穆長春(ムー・チャンチュン)所長が金融フォーラムで、「中国本土で偽のデジタル人民元ウォレット(アプリ)が出回っている」と明らかにした。28日付大紀元電子版などが伝えている。

ムー所長は、今後の対策として、デジタル人民元の「財布」にあたる、アプリのウォレット機能を共通の規格でそろえ、正しい通貨のみが出入りするようにして、ニセ金の流通を防ぐとしている。

早くも混乱が予想されるが、実は、デジタル人民元そのものが、「怪しい通貨」なのだ。


お金の出し入れを全て国家が管理

まず、デジタル人民元導入に向けての近況を見てみよう。中国の深センでは、10月12~18日にデジタル人民元の大規模実験を実施。市民を対象としたものとしては国内初で、抽選で当選した5万人が、一人当たり200元(約3100円)を受け取り、店舗での決済を行った。

10月23日に公表された「人民銀行法改正案」は、「人民元は、物理的な形とデジタル版の両方を含める」とされ、デジタル人民元を合法化する法律の制定が進んでいる。今後は、北京など各地で実験が行われ、2022年に北京冬季オリンピックまでの導入を目指すという。

中国当局はデジタル人民元の導入の目的として「マネーロンダリングや汚職などの犯罪防止」「脱税防止」を主張してきた。こうした「犯罪防止」の名目で、現金決済をデジタルに移行する方向だ。そうなれば、お金は個人情報とセットでしか動かせなくなる。

すでに、中国のスマホ決済は全て「網聯(ワンリェン)」というシステムを経由することを義務付けられている。デジタル人民元は、利用者の個人情報が民間決裁業者の手に渡ることなく、全て国家が管理する。

人々の活動を国家が全て把握する、「完全監視国家」づくりのための主要ツールと言えるだろう。


「ニセ通貨建て」の悲劇が起こり得る

さらに、デジタル人民元は、「対米対策」の重要な切り札のようだ。

香港発行のサウスチャイナ・モーニングポストは29日付電子版で、中国人民銀行の前総裁である周小川(ジョウ・シャオチュアン)氏が、デジタル人民元は「ドル覇権に対抗する」ものであり、中国国内のドル支配を防ぐために設計されていると、ハンガリー中央銀行主催のイベントで発言したと報道した。

激しさを増す米中貿易戦争で、中国はアメリカから更なる金融制裁を受ける可能性がある。これまで中国は米ドルを担保に人民元を刷ってきたが、米ドルが底をつきかけている(本誌2020年10月号参照)。そんな中、世界における「デジタル人民元」決済のシェアを上げておくことで、中国が身動きを取れるようにし、経済的な覇権を握ることを目指しているのだ。

本誌10月号記事では、デジタル人民元が「外からは見えないところで、知らないうちに増やせる」ことを詳細に論じている(「断末魔の中国経済 02 中国の新しいニセ通貨づくり!? 「デジタル人民元」の嘘」)。つまり、"透明性"に大きな問題があるのだ。中国はこれまで、経済統計の数字をごまかし続けてきた。こうしていつの間にか、裏付けのない、いわば"ニセ通貨"建ての金融商品が世界にばらまかれれば、世界中の投資家に悲劇が起こり得るだろう。


デジタル通貨に飛びつくな

日本でも、日銀がデジタル通貨の導入を急いでいる。デジタル通貨の分野で中国が台頭すれば、覇権を握られることになるという危機感も相まってのことだ。しかし、中国のサイバー技術のレベルが高ければ、サイバー攻撃を受け、日本のデジタル通貨が奪われる可能性も見込んでおく必要がある。

日本も、デジタル通貨が持つ高いリスクと脆弱性とを勘案すべきだろう。全てがデジタル化される未来が、国民にとってのユートピアになるかどうか、再考が必要だ。

(河本晴恵)

【関連書籍】

『長谷川慶太郎の未来展望』

『長谷川慶太郎の未来展望』

幸福の科学出版 大川隆法著

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

 

『ザ・リバティ』2020年10月号

『ザ・リバティ』2020年10月号

幸福の科学出版

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入


【関連記事】

2020年10月号 断末魔の中国経済 01 核兵器並みの金融制裁が中国を襲う

https://the-liberty.com/article/17512/

2020年10月号 断末魔の中国経済 02 中国の新しいニセ通貨づくり!? 「デジタル人民元」の嘘

https://the-liberty.com/article/17511/