《本記事のポイント》
- チェコの高官が台湾に訪問
- 背景には親中派との熾烈な対立が
- 中国の外交戦は押され気味
8月30日、チェコのビストルチル上院議長は、プラハ市長や他の議員、及び企業関係者など89人の訪問団を率いて台湾を訪問した。
チェコは中国と正式な国交を持つ。にもかかわらず、憲法上、大統領に次ぐ地位の上院議長が台湾の地を踏むのは、画期的な出来事だった。
チェコ大統領・首相は訪台団を非難
その背景には、チェコの親中派との熾烈な対立がある。
ゼマン大統領やバビシュ首相は、「一つの中国」というチェコの外交方針に反するとして、訪問団の訪台を非難している。
ゼマン大統領は元来、「親中派」として知られる。中国政府は2015年、北京で「中国人民抗日戦争勝利70周年記念式典」の軍事パレードを行ったが、ゼマン大統領は唯一、EU加盟国の国家元首として出席している。2016年3月末には、習近平・国家主席を国賓として招いた。中国のチベット弾圧に抗議するデモ隊も弾圧している。
チェコを親中化させた中国系企業
中国とチェコを結び付けたのは、香港籍の葉簡明だと言われる。2002年、葉はエネルギーおよび金融コングロマリットである「華信能源有限公司」(CEFC China Energy Company Limited。以下、華信能源)を立ち上げた。
華信能源は、民間企業を名乗っているが、中国人民解放軍と「関係」が深い。そもそも中国では共産党と何等かの「関係」がなければ、企業の発展は難しい。
ゼマン大統領は、葉会長をチェコの「経済アドバイザー」として招いている。その後、華信能源は、チェコで多方面にわたりビジネスを展開した。ところが2018年、葉会長は中国当局に贈収賄を疑われ、拘束されている。同年、華信能源はデフォルトを起こし、今年3月、破産している。
葉会長が中国当局に拘束されて以降、チェコでの中国の影響力は落ちたという。
根強い反中派の抵抗
チェコでは反中派も根強い。習氏訪問の直前には、反対運動も起きている。
今回の訪問団の一人であるフジブ・プラハ市長は今年の1月13日、中国を「信頼できないパートナー」だと非難し、台北市と姉妹都市協定を結んだ。プラハ市は2019年10月、台湾問題をめぐり北京市との姉妹都市協定を解消している。
フジブ市長は、自らの就任前に結ばれた北京との協定には、プラハ市に「台湾とチベットの独立に反対」を強いる合意があったと指摘。市長はこの条項を削除しようとしたが、北京市は受け入れず、結局、協定解消を余儀なくされたという。
もっとも、今回のビストルチル上院議長らの訪台は、「反ゼマン」運動の一環として考えることもできる。台湾訪問団は「反中」姿勢を国内にアピールするパフォーマンスの側面もあるだろう。
とはいえ、訪台の背景に激しいせめぎ合いがあったことは事実だ。
中国の外交戦は押され気味
そしてその背景には、米中の外交戦もある。
米国は今回の訪台団を歓迎した。台湾国防部は8月31日、米駆逐艦1隻が台湾海峡を通過したと発表している。この行動は、中国のチェコ訪台団への外交的・軍事的圧力を阻止するためではないか。米国は近い将来、台湾を国家承認する予定だと思われる。野党・民主党も最近、「一つの中国」を党綱領から削除している。
一方、中国共産党は今回の訪台に猛反発している。8月31日、中国外務省は、外相がチェコ訪台団について「近視眼的な行動と政治的なご都合主義の高い代償を払わせる」と述べた事を発表した。
しかしそれに対し、9月1日、フランス外務省報道官は「EU加盟国への脅しは認められない。チェコとの結束を表明する」と公言した。同日、ドイツのマース外相も、中国の王毅外相との会談後の記者会見で「(チェコに対する)脅しは適切でない」と述べ、チェコを支持する考えを表明している。
ちょうど同時期の今年8月下旬から9月初めにかけて、王外相はヨーロッパ5ヶ国(イタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツ)を歴訪していた。「新型コロナ」後、習近平政権は「戦狼外交」を展開したが、手詰まりの状態に陥った。ヨーロッパとの関係修復を試み、外交的突破口を開こうとしたのが、今回の歴訪であった。
ところがチェコをめぐる応酬で、かえってEU諸国の関係を悪化させた感がある。中国の外交戦は、西側に押され気味だ。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ザ・リバティ』2020年10月号
幸福の科学出版
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