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《本記事のポイント》
- 北京で確認された香港における「中國之治」
- 締め付け強化する香港政府
- デモ隊は背水の陣を敷く
10月28日から31日まで、中国共産党の重要会議である第19期「4中全会」が開催された。
周知のごとく、中国政治はいつもブラックボックスだ。その中の限られた情報によれば、今回、重要テーマとなったのは「後継者問題」「経済問題」「香港問題」だったという。そのラインナップ自体は、ほぼ事前に予想されていた通りだった。
確認された香港における「中國之治」
「香港」の議題については、中国の強硬姿勢が確認される着地となった。会議の中で強調されたのが、「中國之治」という言葉。「中国の支配」、あるいは「中国の治世」くらいの意味だ。
その「治」を強化するためとして、「中国共産党の支配を強化する」「人民をもって中心となすことを堅持する」「全面的に法治国家を堅持する」の三原則が確認された。
3つ目の「法治国家の堅持」については、噴飯ものである。1949年の建国以来、中国が正しい意味で法治国家であったためしなどない。香港デモに厳しく対処するための大義名分として"法治"を持ち出しているにすぎないだろう。
会議直後の11月4日、習近平・中国国家主席は、上海で林鄭月娥(キャリー・ラム)・香港行政長官と会談。「秩序の回復が香港の最重要任務だ」と釘を刺した。
締め付け強化する香港政府
こうした動きと軌を一にするように、香港への締め付けは強化され続けている。
10月31日、香港高等法院は「臨時禁制令」を公布した。同5日から施行された「覆面禁止法」に続く引き締め案の第二弾だ。
この法律は、いかなる人もインターネットのプラットフォーム上にいることを禁止するもの。SNS(LIHKG討論区やTelegram)を利用した言論によって他の人の"暴力"を煽動・教唆したり、財物の毀損や威嚇を促すことも禁じる。
11月24日、香港では区議会選挙(小選挙区制)が行われる。そこで「雨傘革命」の指導者、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)が立候補する予定だった。しかし香港政府は、黄の立候補を受け付けなかった。
アメリカは現在、香港の高度な自治が認められているかの検証を行う「香港人権・民主法案」の成立を急いでいる。本当ならば香港区議会選挙前に通過させ、黄の立候補拒絶を検証対象としたいところ。
しかし、中国共産党が区議会選挙を中止したり、無期限延期したりする可能性も否定できない。
北京政府は今後、香港の支配強化を加速させるかもしれない。「一国二制度」を止めて、完全な「一国一制度」に移行する。そして香港に、インターネットの検閲制度、社会信用の点数制度(香港版「チャイナ・クレジット」)、社会監視制度を導入するつもりだろう。
デモ隊は背水の陣を敷く
こうした中で、デモ隊も背水の陣を敷いている。デモ隊の大多数は、「和理非(平和、理性、非暴力)」を掲げる「和平派」だが、一部に「勇武派」と呼ばれる比較的過激なグループもいる。彼らの合言葉は、広東語で「死なば、もろとも」を意味する「攬炒(ランチャオ)」。「自由が得られなければ香港社会まで道連れにする」くらいの覚悟なのだろう。
香港情勢は、予断を許さない状況となっている。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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