《本記事のポイント》

  • 北朝鮮のミサイル・原子力潜水艦の開発は、「核の傘」の信頼性を低下させる
  • 日本は非核三原則の「持ち込ませず」を放棄し、INFを配備すべき
  • INFの日本への配備は新たな核軍縮条約づくりに道を開く

元航空自衛官

河田 成治

プロフィール

(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

中距離核戦力(INF)全廃条約が8月2日に失効した。約30年間、アメリカとロシアの軍拡を抑えてきた中距離核戦力(INF)全廃条約から、今年の2月にアメリカが離脱を決めたためである。

ロシア側は2011年に履行をやめ、条約で禁止しているミサイルシステム「イスカンデルM」を配備し始めた。2017年には、バルト海に面するカリーニングラードという飛び地に500キロの射程を超える、核や通常弾を積めるミサイルを配備した。これによって、条約が骨抜きになったため、アメリカは離脱を決めたのだ。

この条約は、核を搭載しているか否かにかかわらず、中距離の射程である500~5500キロの地上発射型ミサイルを廃棄し、持つことも禁止してきた。米ソの大陸間には届かないが、ヨーロッパには撃ち込めるというミサイルの保有を全廃することで、ヨーロッパが戦場になることを防ぐためだった。

しかし、条約違反を犯した疑いの濃厚なロシアよりも問題なのが中国だ。条約外にあった中国はこの間、ミサイルを増強してきた。

中国は地上発射型ミサイル(DF21およびDF26)を1400~1800発、配備しているという。米軍は、INFで禁止されてこなかった、海上・空中発射型ミサイルしか持つことができなかったため、米中のミサイル戦力は中国優位に傾いてしまった。

INF条約失効後、日本はどのような戦略をとるべきか。ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)未来創造学部で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。

(聞き手 長華子)

日本は、INFを「持ち込む」べき

ワシントンの大手研究機関「戦略予算評価研究センター(CSBA)」によると、アメリカはこの状況を変えるために、新たに導入する中距離ミサイルを、グアム、米比相互防衛条約のあるフィリピンなどに配備することで、アジアの安定につなげる予定です。これはCSBAが5月に発表した海洋圧迫戦略(マリタイム・プレッシャー・ストラテジー)の一環です。ここは国防省の外局の役割を果たしています。

日本も日米同盟を利用して、INFを米軍基地に持ち込むことを早急に検討すべきでしょう。

というのも、北朝鮮の核戦力が増強されている可能性が高いからです。北朝鮮は7月23日、新たに建造された原子力潜水艦を視察したと発表しました。この原子力潜水艦は、最大4基の弾道ミサイルを搭載できる可能性があると言われています。

また北朝鮮は、同25日に新型ミサイルの実験を成功させ、同31日にも弾道ミサイルを日本海に発射しました。25日のミサイルは、ロシア製の「イスカンデル」に酷似していると言われています。

もし「イスカンデル」である場合、今までの日本のミサイル防衛システムでは迎撃が困難です。なぜなら、この北朝鮮の新型ミサイルは、日本の防衛ミサイルを回避するような飛翔をするからです。

制裁下でも北朝鮮はミサイル、原子力潜水艦の開発を進めています。北の開発が進むほど、「アメリカの核の傘」への信頼性は落ちます。

「核の傘」は、長距離弾道弾(ICBM)を米本土から打つことが前提とされています。米本土あるいはグアムが報復を受ける可能性があるのに、同盟国のために核を使用するのか、疑問が持たれています。アメリカが本土を犠牲にする可能性は低いからです。

でも、米本土から打たなくても、北朝鮮や中国が日本を狙う場合は、日本から打ち返せばよいのです。

その場合、日本は「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則の「持ち込ませず」の部分をなくすことです。これによって、はじめて北朝鮮の原子力潜水艦等に対する抑止力を持つことができます。

つまり、第一段階としては通常弾で構わないのでINFを米軍基地などに配備し、いつでも核を搭載できることを匂わせておく。第二段階としては、米軍のINFに核を搭載する。第三段階として日本独自のINFを持つ、という段階論が考えられるでしょう。

INFの配備は中国を入れた新たな核軍縮条約づくりにつながる

平和主義者の方々は、日本への中距離核ミサイルの配備について、「核軍縮ではなく核拡散の原因になる」と反対するかもしれません。

しかし逆説的ですが、日本への配備は長期的に見ると核軍縮への道を開きます。この点については前例があります。

旧ソ連は1997年、東ヨーロッパに中距離弾道ミサイルSS‐20 を配備しました。当然のことながらアメリカがロシアに対し、「止めてください」と要請しても配備を止めることはありませんでした。そこで北大西洋条約機構(NATO)は、ヨーロッパにパーシング2という中距離核ミサイルおよび巡航ミサイル(GLCM)を配備して、ロシアに対峙しました。

ミサイルの配備によって、ロシアを交渉の場に引きずり出すことができたことで、軍縮につながったのです。

軍縮を進めるために、あえてミサイルを配備したNATOのやり方は、「二重決定」と呼ばれました。

同じようにINFをアジアに配備することで、アメリカがいま模索している新たな核軍縮条約の交渉の場に、中国を着かせることができるようになります。

中露が核の面でもパートナーシップを組む前に日露平和条約を

懸念されるのは、中国とロシアが日本海と東シナ海で、7月23日に初の合同演習を行ったことです。核兵器の搭載が可能な長距離爆撃機4機も参加しました。

中露の軍事的な関係が強化されており、共同作戦が可能であることを見せつけたわけです。

ただ中国とロシアは、互いに安全保障上の脅威だとみなしていますので、あくまでもパートナーであって、同盟ではありません。ロシアの場合は、国際政治の一極を担うアクターとして影響力を高めるにはどうしたらよいのかということを考え、その立場を強化するために軍事演習をしている可能性が高いでしょう。

しかし中露の軍事的な関係が強化されているのは確実です。核の面でも中露が結びつけば、軍縮交渉は困難を極めます。

今後も中露の軍事協力は進むことが予測されていますので、早急に日露平和条約を締結すべきです。それが日本を守り、アジアの平和につながります。

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2018年11月2日本欄 米露は中国への脅威に対抗する新たな条約を締結する【HSU河田成治氏インタビュー】

https://the-liberty.com/article/15065/

2018年12月28日付本欄 南シナ海から始まる米中覇権争いの行方とは 【HSU河田成治氏インタビュー】(前半)

https://the-liberty.com/article/15262/

2018年12月29日付本欄 南シナ海から始まる米中覇権争いの行方とは【HSU河田成治氏インタビュー】(後半)

https://the-liberty.com/article/15265/

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