《本記事のポイント》

  • 安倍政権の無闇な対米追従がタンカー攻撃を招いた
  • イランだけを責めるのは不公平
  • 中東戦争が起きれば「イラン・シリア・ロシア・北朝鮮・中国」が団結してしまう

アメリカとイランとの間の軍事的緊張が高まっている。安倍晋三首相がイランを訪問中、中東ホルムズ海峡付近で、日本の海運会社「国華産業」などが運航するタンカー2隻が攻撃を受けた。それを「イランの仕業」として、トランプ政権は中東への米軍増派を決定した。

対米追従型外交が失敗を招いた

攻撃は、安倍首相が「アメリカとイランとの仲介役」として、最高指導者ハメネイ師と会談している真っ最中に起きた。とんだ「歓迎」を受けたわけだが、その真意は何だったのか。

大川隆法・幸福の科学総裁は、攻撃が行われた当日、イランのロウハニ大統領の守護霊霊言を収録した。守護霊は「 来てくれたのは、ありがたいですが、基本的にトランプさんの使いですからね 」と話し、イランの中に訪問を歓迎しないグループがいることをほのめかした。

様々な状況証拠を見ても、この攻撃が「政治的メッセージ」だった可能性は高い。

タンカーへの攻撃には、吸着型の爆発物「リムペット・マイン」という機雷の一種が使われたという。この意図について安全保障学に詳しいハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の河田成治アソシエイト・プロフェッサーは、編集部の取材にこう述べた。

「タンカー事件の首謀者はまだ確定していませんが、アメリカが主張するようにイランの革命防衛隊による攻撃だった可能性も高いと思います。国家レベルでなければ持てないと思われるような機雷だったと推定されるからです。

そもそも船を『撃沈』したければ、機雷ではなく魚雷を使ったはずです。しかし機雷を、タンカーの海面より上の側面にわざわざ取り付け、爆発で生じた穴に海水が入らないようにしました。そのことを見ても、目的は撃沈ではなく、政治的メッセージを送ろうとしたと見るのが妥当でしょう」

ではいったいイランの一部勢は、日本の何が不服だったのだろうか。

トランプ政権は昨年、オバマ政権下で結ばれた「イラン核合意」をイランの核保有を防げないとして離脱した。新しい合意をつくる交渉の席にイランを着かせるため、経済制裁をかけている。

日本もこの経済制裁に追従し、イラン産原油の禁輸に踏み切った。だが日本のイラン産の原油への依存は、全体の3.8%に過ぎない。この判断は「日本はアメリカ側につく」という政治的なメッセージの意味合いの方が強かった。これは、アメリカの"正義"を追認するだけの行動だ。

タンカーへの攻撃は、「自発的な判断をせずアメリカの言いなりになっている」日本の訪問への不信の表明だったと言える。

またホルムズ海峡は、世界で海上輸送される原油の3割が通る大動脈。海峡での危機の可能性を煽ることができれば、アメリカからの軍事攻撃を抑制することもできる。

イスラエルへの肩入れは不公平

アメリカは昨年、「イラン核合意」から離脱し、イランの非核化を徹底させる構えだ。しかし、アメリカの"正義"にどれだけの正当性があるのだろうか。

アメリカは、中東でイスラエルにのみ核武装を許している状況が続いている。

もとより親イスラエルで知られるトランプ政権下で、その肩入れは強まった。例えば、第三次中東戦争後、シリアから奪って占領したゴラン高原の主権をイスラエルに認めるなどしている。

国際法では武力による領土併合を不当としている。もしこのゴラン高原でのイスラエルの主権が認められるなら、「力による現状変更」がまかり通ってしまう。

しかしアラブ諸国からすると、イスラエルの建国そのものに、一種の非道さがあった。イスラエルは、1948年に建国された。それは「ユダヤ人がイスラエルに戻ることが、イエスの再臨に必要な前提条件だ」と信じるキリスト教徒の手助けによって行われた。

しかし、その建国によってパレスチナ住民は追い出された。その後、4次にもわたる中東戦争が四半世紀にわたって続いた。

つまりイスラエル建国は、イスラム教徒たちがイスラエルとアメリカへの憎しみを募らせる原因をつくったのである。

このイスラエル建国運動であるシオニズムに対して、政治哲学者のハンナ・アーレントは、自身もユダヤ人であったにもかかわらず早くから反対の意を表明していた。

アーレントにとって、ユダヤ人と異教徒とを二つに分類するシオニストのやり方は、「支配人種の理論と同じ」だった。要するに、ナチスがアーリア人の優越を根拠にユダヤ人を迫害したことと、一周まわって同じだというのだ。

イスラエルはヨルダン川西岸で、ナチスがユダヤ人を収容したゲットーさながらの施設と高圧電流の流れる壁をつくり、パレスチナ人の移動の自由を奪っている。これを見るなら、ユダヤ人差別を行ったナチスドイツの全体主義との類似性を指摘せざるを得ない。

しかも、ユダヤ人たちによるヨルダン川西岸への入植は、なし崩し的にイスラエルの領土にしてしまおうという作戦だ。つまりパレスチナ国家を樹立しようとしても、入植したユダヤ人が弊害となって困難となる。これは国際社会が合意した「パレスチナ国家をつくり、イスラエルと平和的に共存させる」という「二国家共存」を事実上、否定していることになる。

こうしたなかで、安倍首相が「日本はイスラエルに肩入れしている」と捉えられることは、果たして本意だろうか。日本が、イランの非核化を促すのであれば、少なくとも「イスラエルのみが核武装を許されている不公平さ」を同盟国アメリカに問題提起するといった、バランス感覚が求められていた。

宗教的な調停役を果たすべき

さらに今の中東の混乱は、単なる"領土争い"だけでなく、その根底には「ユダヤ教・キリスト教vs.イスラム教」という一神教同士の対立がある。

確かにイスラム教は、人権抑圧的な面がある。「自由」よりも「平等」の教えが強く、現代にそぐわない戒律も多くあり、近代化を阻害している面は否めない。

一方、ユダヤ・キリスト教側にも、9.11以降、イスラムとテロとを結び付け、悪魔視する偏見が見え隠れする。だが、イスラム教徒が暴力的だと断ずるのには疑問がある。

宗教学者のカレン・アームストロング氏は、編集部の取材に「『イスラム教徒は暴力に訴えることがある』と言われますが、キリスト教国の歴史を見れば、イスラム教はキリスト教よりもはるかに平和で寛容な宗教だったことは明らかです」と答えている(2018年2月号記事「『慈悲の心』で宗教の違いを乗り越える」)。

一神教はどちらかが倒れるまで戦いがちだ。しかし、今必要なのは、お互いを認め合う寛容の精神だろう。

中東問題の背景を、日本がここまで掘り込んで理解したとき、調停役としてどのような仕事が求められているかが浮かび上がる。

日本は、歴史的に一神教同士の争いに与し、禍根を残したことはなかった。神道と仏教との神仏習合を成し遂げた宗教融和と寛容の伝統もある。

さらに、伝統や宗教を活かした上で近代化した明治維新という実績もあるため、近代化が遅れるイスラム教世界にも、「西洋化によらない近代化が可能である」ことを伝えることができる。

その上でさらに期待するとすれば、より超越的な宗教観かもしれない。

宗教学者カレン・アームストロング氏も、著書『神の歴史』の中で、旧約聖書には、選民主義的で排他的なヤハウェとは異なる、慈悲の神エローヒムが存在すると指摘している。

現在、世界では、前者の影響によって、一神教同士の争いが絶えない。となれば彼らを和解に導くには、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つの兄弟宗教を導いてきたエローヒムの愛の教えを選び取るよう、働きかけを続ける覚悟が必要だ。

さらに幸福の科学の霊査によれば、エローヒムはキリスト教の「主なる神」、イスラム教の「アッラー」と同じ存在だということが分かっている。こうした宗教的真実の探究も必要となる。

失敗を続けるアメリカの中東政策

いずれにせよ日本は、中東における対立緩和に動かなければならない。さもなくば、自国の安全保障をもおびやかされることになる。

経済制裁で経済的にひっ迫したイランは、「挑発行為」に訴えている。その背景には「ホルムズ海峡をイランが封鎖すれば、原油の供給が不安定となる」という危機感が広がり、アメリカへの緊張緩和を求める声が高まるとの計算もある。

しかし、もしアメリカがイランからのメッセージを読み違えて態度を硬化させ、武力を行使してでもイランの核開発を止めようとすれば、イランとの間の"最終戦争"が起きる可能性が高まる。

大川隆法・幸福の科学総裁は、2008年1月に行われた法話「朝の来ない夜はない」でこう予言している。

アメリカという国では、資本の中枢部分をユダヤ系の人たちが握っていますが、ユダヤ系の人たちにとっては、約七百万の人口しかないイスラエルであっても、『第二次大戦後にせっかくつくった国がなくなる』というのは大変なことなのです。そのため、私は、『アメリカはイスラエルの防衛に動くであろう』と推定しています。そして、『アメリカにとって、イスラエルを護ることと、日本を護ることと、どちらの優先度が高いのか』ということを考えると、やはり、アメリカはイスラエルを護ることを選ぶはずです

米軍が中東で戦争を始めれば、一番得をするのは、北朝鮮と中国だ。

アメリカのアジアへのにらみがきかなくなる上に、北朝鮮や中国がイランと連携を深めるきっかけにもなりかねない。そこにさらにシリア・ロシアなども巻き込んで一致団結すれば、かつての冷戦構造のようになる可能性もある。日本は、ぎりぎりまでアメリカとイランとの橋渡しを続けなければならない。

(長華子)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『日本の使命』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=2210

【関連記事】

2019年6月14日付本欄 香港デモとイラン沖タンカー攻撃に対し日本は何を言うべきか 大川総裁が大阪で講演

https://the-liberty.com/article/15874/

2019年6月15日付本欄 イラン問題をどう考えるべきか ロウハニ大統領、ハメネイ師の守護霊霊言

https://the-liberty.com/article/15878/

2019年5月24日付本欄 トランプ大統領「イランとの戦争望まない」:トランプ氏が最大限の圧力をイランにかけるワケ

https://the-liberty.com/article/15813/