金融庁が「年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい」などとして、貯蓄などで独自で資産を形成することを促す報告書を出したことが話題になっている。
「このままなら年金が減ってしまうので増税が必要」などという主張が説得力を持ちそうだが、消費税が10%に上がっただけで年金が維持されるほど見通しは甘くない。むしろ消費税が上がると景気が冷え込み、個人の収入が減り、トータルの税収も下がってしまう。
今回は、「税と社会保障の一体改革」という発想自体が間違っていると警鐘を鳴らす、産経新聞特別記者の田村秀男氏のインタビューを再掲する。
(※2017年2月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)
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Interview
年金問題は消費増税では解決できない
「税と社会保障の一体改革」に警鐘を鳴らしてきたジャーナリストに話を聞いた。
産経新聞 編集委員兼論説委員
田村秀男
(たむら・ひでお)1946年高知県生まれ。早稲田大学第一政治経済学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)などを経て、現職。著書に『アベノミクスを殺す消費増税』(飛鳥新社)などがある。
年金をはじめ、社会保障費の不足を消費増税によって賄う「税と社会保障の一体改革」については、発想自体が間違っていて、根本から見直すしかありません。
そもそも経済が成長することが、社会保障を成り立たせるための大前提です。経済成長すれば企業や個人の収入が上がりますので、税率を上げなくても所得税などによる税収が増えて財源は確保できます。
経済成長率が名目で3~4%になれば、年金も相当楽になるはずです。ただ、そうなれば物価が上がるので、以前と同じ年金額をもらっても、買えるものが多少減ります。しかし、保険料を払い、年金を支える現役世代の所得が上がらなければ、高齢者を養えません。
この成長を止めたのが消費増税です。かつて消費税が5%に上がった時も、慢性的な不況に陥ってしまいました。
経済成長を目指したアベノミクスも、最初の1年で、デフレから抜け出す希望が見えたのですが、消費税を上げた結果、消費が冷え込んでしまったのです。私は、「せっかく景気が上向き始めた時に、消費増税をしてはいけない」と言っていたのですが、それは極めて少数派でした。
企業の成長を封じる増税
日銀総裁も、経済学者も、消費増税をしても思い切った金融緩和で経済成長できるだろうと見込んでいたようですが、その読みは甘かった。企業がお金を借りて、使える環境ではなくなってしまったのです。
日本の企業が抱える資産も、アベノミクスが始まってから、実は100兆円ほど増えています。そのため安倍政権は今、企業に賃上げを要請しています。確かに、その半分でも設備投資や雇用を増やすために使えば、景気は良くなるでしょう。
ただ、経営者の立場に立てば、消費増税で国内需要が盛り上がらないのに、設備投資や賃上げなどできないと考えるのももっともです。結局、物が売れないデフレの時に消費増税をしたため、企業の成長を止めてしまったのです。
社会保障は票になる?
アメリカ大統領選では、ドナルド・トランプ氏が有権者の支持を得ました。「インフラ投資をしてくれるのではないか」「企業の海外への流出を止めてくれ、雇用を確保してくれるのではないか」と経済成長への期待が高まったからですが、実に健全な政治のあり方だと思います。
しかし、日本の政治家は、社会保障が理由なら、経済成長を殺す増税を打ち出しても票になると考える。経済成長できると思わないところに、日本の政治の異常性を感じます。
政府には経済を成長させる責任があります。そのために何をやるべきで何をやるべきでないかという見識が必要です。
このままであれば、年金制度は成り立たなくなります。とはいえ、政府が無策を脇に置いて、年金支給をカットするために、企業に対して、「高齢者を雇用せよ」と命令するとなれば問題でしょう。何歳まで働くかについては、企業と個人の自主的な意志が尊重されるべきです。
今の日本は高齢者を一括りに扱っていますが、これはいかがなものかと思います。私も70歳になりましたが、今も働き続けています。役所で手続きをすればバスや銭湯が無料になると言われても、なんだか嫌ですよね。
働くことが生きがいで、それにふさわしい報酬をいただけるのは、非常に快適です。私としては酒やたばこでストレスを抜きながら(笑)、できるだけ長く働くつもりでいます。(談)
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