《本記事のポイント》
- 法案が成立したが、保育を無償化しても待機児童など問題は山積み
- 高等教育も奨学金負債など根本的な問題が残る
- 税金をつぎ込む無償化よりも規制緩和や教育の質を高めるなど根本改革を
幼児教育・保育を無償化する「子ども・子育て支援法改正案」、住民税非課税世帯などの低所得世帯を対象に、大学などの高等教育機関の無償化を行う「大学等修学支援法」が10日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立した。
「子ども・子育て支援法改正案」は、住民税非課税世帯の0~2歳、全世帯の3~5歳の幼稚園、保育所などの利用料を無償化するもの。「大学等修学支援法」は、授業料や入学金の減免と、返済不要の給付型奨学金の拡充を柱に支援を行う。
幼児教育・保育は今年10月から、高等教育は2020年4月から、無償化が始まる予定だ。
子育て世帯にはありがたい政策にも感じるが、財源には消費税率10%への引き上げによる増収分を充てることになっている。この教育無償化の代償は大きいといえる。
保育無償化で待機児童問題が悪化?
まず、保育園や幼稚園の無償化。これからかかる子供の教育費を考え、産後できるだけ早く職場復帰やパートに出たいと願うお母さんは多い。
そんな希望を叶えた政策とも言えるが、そもそも待機児童問題が解決していない地域は多い。さらに、「自分で子育てしよう」と思っていたお母さんたちが、「無償なら預けたい」と考える可能性も高く、"潜在ニーズ"を掘り起こすといえる。これによって、預ける以外に選択肢がない切羽詰まったお母さんの受け皿を減らしてしまうかもしれない。
さらに現在の保育制度には、すでに多くの税金が使われている。例えば、東京都江東区では、乳児1人あたりの年間保育コストは約600万円。この制度を長く続けられるとは思えない。いずれ、さらなる増税が必要となるだろう。
稼げる「実学」を学ぶ高等教育で奨学金に苦しまない
高等教育の無償化について、柴山昌彦文科相は10日、「家庭の経済事情にかかわらず、自らの意欲と努力で明るい未来をつかみ取ることができるよう努力していきたい」と同法の意義を強調。
しかし、すでに低所得者世帯向けの奨学金制度や大学の特待生制度などは充実している。意欲と努力があれば、勉強を続けることは可能だ。
さらに、大学進学者の2人に1人が奨学金を借りている現在、卒業後に返済に苦しむ「奨学金負債」も問題となっている。
現在、奨学金を借りているのは、無償化の対象になる低所得者世帯だけではない。今回の無償化では、わずかな所得差で対象を外れた家庭が教育費の捻出に苦しむことが懸念されており、画一的な無償化には問題がある。
安易な無償化よりも、高等教育の「質」の向上こそが重要だ。端的に言えば、就職後に"いい給料"をもらうための「実学」を学ぶ高等教育の整備を優先すべきだ。所得が多ければ、奨学金の返済に苦しむこともなくなる。実際に、アメリカではトランプ政権がアプレンティスシップ(見習い訓練制度)を推進し、成果をあげている。
教育は「国家百年の計」とされるが、多額の税金をつぎ込んでの無償化よりも、保育所関連の規制緩和により、民間企業の保育事業への参入を促したり、高等教育の「質」を上げたりすることなど、やるべきことは多いのではないか。
(駒井春香)
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