ノースウエストガーデンズのシニア向け公共住宅。
2019年5月号記事
PPP先進国アメリカから学ぶ
福祉は「減税」でこそ、充実する
人口減少や財政赤字などを抱える日本の政府や自治体を立て直す秘策として注目される
公民連携(PPP)。前号に続き、アメリカの成功事例を紹介する。
(編集部 長華子)
日本では、築30年以上の公営住宅が約130万戸点在しており、老朽化や耐震、空き家対策が待ったなしの状況にある。
しかし、人口減少や財政赤字によって、公営住宅を修繕・維持できず、公共サービス自体を縮小せざるを得ない地域が数多い。
そうした中、役所が公共事業を独占するのではなく、知恵や資金を持つ民間の力を活用し、効率的な運営を目指す「公民連携(PPP)」の動きがある。過疎化が進む地方を立て直す起爆剤として期待されているが、定着には至っていない。
これに対し、 アメリカのフロリダ州では、PPPの資金調達において「減税」を行い、PPPを後押ししている。
犯罪率が半減した町
官側代表
タム・イングリッシュ
フォートローダーデール市住宅公社
エグゼクティブ・ディレクター
1月下旬、記者が訪れたのは、同州フォートローダーデール市にある住宅街「ノースウエストガーデンズ」。
かつてこの住宅街は、麻薬の密売が横行し、銃撃戦で死者も出る危険な地区だった。しかし、今はそんな面影はどこにもなく、閑静な町に生まれ変わった。
同市の住宅公社の責任者タム・イングリッシュ氏によると、もともとフォートローダーデールも財源不足に直面し、スラム化するノースウエストガーデンズを活性化することはできなった。
同氏が町の再開発に取り組んだ13年前、政府から支給される補助金が減り、低所得者向けの公営住宅をつくる余裕がなくなったという。
そこで、PPPによる公営住宅を建設する資金調達方法として活用したのが、レーガン政権が1986年に社会福祉改革として創設した「低所得者用住宅投資減税(LIHTC)」だ。
これにより、この約10年で、低所得者向けの公営住宅やインフラに約27000万ドル(約301億円)を投資。結果、学生の中途退学率も激減し、地域の犯罪率は半減。安全な住宅街を実現した。
イングリッシュ氏は、「私たちはPPPのおかげで、他の役所よりも本当に多くの仕事を成し遂げることができました」と話す。
減税による社会福祉の実現
日米のPPPの財源の考え方が根本的に違う