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《本記事のポイント》
- 中国で、高校生相手に「特別警察(SWAT)」も出動し怪我人も
- 生徒の「受験資格」を奪った共産党幹部の詐欺
- 「天安門事件」を意識しピリピリする政権
日本では知られていないが、中国で当局が学生たちに暴行する事件が起きた。
湖北省天門市には、同省人民政府が建てた「天門職業学院」(Tianmen Vocational College。以下、天門学院)という高校がある。
3月11日、同校の生徒が、学院や地方政府に抗議し、街中でデモを行った。抗議の理由は、生徒達約1300人が、「学籍」「卒業証明書」を与えられないどころか、なぜか「無戸籍」になってしまい、4月中旬の湖北省の技能大学入試(実技と筆記)の受験資格を失ってしまったというもの。
およそ1000人の生徒達が「青春を返せ、夢を返せ」というスローガンが書かれた横断幕を掲げ、平和裏に行進していた。
高校生相手に「特別警察(SWAT)」も出動し怪我人も
ところが、人民政府や天門学院は、警察や特別警察(SWAT)の出動を要請したのである。そして、生徒らと警察と対峙した際、言い争いから暴力沙汰に発展した。
数人の生徒が警察から暴力を振るわれ、1人の女子生徒が倒れて動けなくなり、また、ある男子生徒は、警官に棍棒で殴られて、頭にコブができた。彼らは病院へ運ばれた。
よく知られているように、中国共産党は、常に物理的な力で人々を抑えようとする。今回は、まだ17歳の生徒たちである。同党のやり方は、あまりに道義に反している。
生徒の「受験資格」を奪った共産党幹部の詐欺
そもそも、生徒たちが受験できなくなったのも、"共産党員の不正"による。
天門学院は全日制の公立を謳っているが、本当は私立高校だという。その学院長や数名の副学院長は、中国共産党幹部だった。
自分たちの生徒に、「学籍」も「卒業証明書」も与えられない。いったい何がどうなれば、そんなことになるのか、甚だ疑問である。
また、「戸籍」に関しては、学院は農村出身の生徒に、天門市への転籍を勧めていた。将来的に、「農村戸籍」よりも「都市戸籍」のほうが有利だからである。多くの生徒は勧めに従い、転籍しようとしていた。しかし学院側がその手続きをきちんと行わず、生徒たちがいつのまにか「無戸籍」になってしまったのだ。これも、摩訶不思議と言わざるをえない。
どんな背景があるにしろ、これは詐欺行為に他ならない。
学院は毎年、生徒集めに精を出し、全国の貧しい農村からも学生を受け入れている。さらには高校1年生や2年生の転入も積極的に受け入れていた。中学校の教師を買収し、学生を学院に送り込んでもらっていたという噂もある。
こうしてかき集めた生徒から、湖北省出身者からは毎年3000元(約4万9500円)~5000元(約8万2500円)の学費を吸い上げ、他省市出身者からは7000元(約11万5500円)~1万元(約16万5000円)を吸い上げてきた。
学費を集めるだけ集めておいて、最後は「無学籍」「無証明書」「無戸籍」で投げ出すとは、あまりにむごい仕打ちだ。
そうした不正への「正当な怒り」を「平和裏なデモ」で表明した生徒たちを、党幹部たちは警察や特別警察で暴力的に鎮圧した。一般市民らは、生徒らに同情している。
「天安門事件」を意識しピリピリする政権
事件当時、北京では「全国人民代表会議」や「政治協商会議」が開催されていた。習近平政権としては、会期が終了するまで、地方で大きな事件が起きて欲しくなかったのだろう。特に今年は、1989年に起きた「6・4天安門事件」から30周年に当たる。そして今度の事件は、「天安門事件」後、初めて起きた大規模デモであった。
ひょっとして、今回の事件が今後、全国に思わぬ波紋を及ぼす可能性がないとも言い切れないだろう。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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