《本記事のポイント》

  • 31省市中、28省市が豚コレラに"陥落"
  • ウイルス入り餃子を売る中国企業に、被害を隠ぺいする北京政府
  • 下層の生活直撃で、政情不安定に!?

中国では、末尾が「9」の年は大事件が起こると信じられている。2019年は波乱の年となるかもしれない。

その火種は、「内憂外患」さまざまある。「外患」といえば、「米中貿易戦争」だろう。しかしそれに劣らず深刻で、かつ日本のメディアであまり報じられない「内憂」がある。「アフリカ豚コレラ」(以下、ASF)だ。

中国で肉と言えば「豚肉」を指す。肉類の約3分の2は豚肉(1年間の消費量は約5000万トン)である。ASFの拡大は、中国社会を揺るがしかねない猛威だ。

台湾獣医学界の権威である頼秀穂氏は、「中国ではこれから数十年、ASFが終息しない」と予想している。実際、それを裏付けるかのような現象が広がっている。

31省市中、28省市が"陥落"

ASFは2018年8月以来、習近平政権を悩ませてきた。今年2月の春節前まで、蔓延が終息するかに思われる局面もあったが、春節期間中の2月8日、湖南省で再びASFウイルスに感染した豚が確認された。

2月18日にも、今まで「非汚染行政区」だった南部、広西チワン自治区北海市で豚がASFに感染した。2日後の20日にも、山東省で感染が確認された。さらに24日、河北省でも感染が確認されている。

これで、中国31省市(5自治区を含む)中、28省市までが"陥落"したことになる。ASF非汚染省市は、大陸から離れている海南省、西域のチベット自治区と新疆ウイグル自治区の3行政区のみとなった(3月10日現在)。

ウイルス入り餃子を売る企業

さらに深刻な事態を招きかねない問題がある。

河南省の「鄭州三全食品」「上海国福龍鳳食品」「科迪食品集団」等、十数社の有名食品メーカーが、最近、AFSウイルス入り水餃子等を販売していた事が分かった。その十数社で中国全体の50%以上のシェアを占めるという。

また、ASFに感染した豚肉の闇市も存在する。ASFに感染した豚肉を食べても、人間には直接の害がない。一部の人々はその安い豚肉を食している可能性も排除できない。

もし豚がその残飯を食べれば、たちまちASFに罹患するだろう。

ようやく最近、中国公安はASFに感染した豚肉を扱う"悪徳業者"を検挙し始めた。

被害を隠ぺいする北京政府

そんな中、当局は豚肉汚染による社会不安を抑えようと、躍起になっている。

中国共産党は、上記のような感染拡大がありながら、「ASFのコントロールはできている」「ASFの拡大がおさまりつつある」と喧伝している。こうなると、もはや"ブラック・ジョーク"だ。

当局は、同国内でASFに感染した豚が約100万頭殺処分されたと発表している。しかしそれも、事態を小さく見せるために少ない数字を発表している可能性が高い。

というのも、豚肉の値段が一時、急騰しているのだ。100万頭というと、中国中の豚の0.1%レベルにしか過ぎず、全土での価格を引き上げるような規模ではない。実際、北京は数百万頭、あるいは数千万頭単位で殺処分したのではないか。

しかし中国のマスメディアは、こうした真実をなかなか報道できない。一党独裁の弊害を露呈している。

羊牛の高騰が下層の生活を直撃する

豚肉の代わりとなっている他の肉も、軒並み高騰している。

羊肉は昨年11月上旬時点で、1キロ当たり54元(約890円)~58元(約960円)だった(全国平均)。だが、今年2月中旬には、同62元(約1020円)前後となっている。

牛肉も昨年11月上旬、1キロ当たり51元(約840年)~56元(約920円)だった(全国平均)。今年2月中旬には、同およそ58元(約960円)へと上昇している。

現在、中国は景気が悪い。「低端人口」(下層の人々)7~8億人にとって、肉類の値上がりは、生活を直撃する。

ASF騒動は、貿易戦争による不況と相まって、中国を揺さぶるだろう。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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