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《本記事のポイント》

  • 世論調査"最有力"の柯文哲とは?
  • 中国共産党の支援で当選した
  • とはいえ組織がない柯文哲の弱さ

2020年1月に行われる台湾総統選は、アジアの命運を左右する。いったい誰が勝利するのか。現地台湾では、総統候補をめぐりさまざまな世論調査が行われている。

国立政治大学選挙研究センターが行った「2019国家安全調査」においては、蔡英文・現総統の支持率は15.3%と最下位だった。

2018年末、台湾のケーブルテレビ局「TVBS」が行った世論調査も似たような結果だった。おおむね台湾世論を映しているだろう。

なぜ蔡英文は人気がないのか。台湾の地上波テレビ放送局「民視」の東京支局長、張茂森氏によれば、「ほとんど何も仕事をしていないから」と手厳しい。

民進党支持者は、蔡英文が「新憲法制定」や「国名変更」を目指すことを期待していた。しかし蔡英文がそれらをやる気配が一向になく、「ジェンダー問題」、特に「同性婚」にこだわり過ぎていると感じている。

それが、2018年11月の統一地方選で民進党が敗北した理由だと、張氏は指摘する。

世論調査"最有力"の柯文哲とは?

では世論調査で一番人気なのは誰だったのか。

それが、台北市長を務める柯文哲(か・ぶんてつ)。上記調査において、38.7%の支持を獲得し、2016年総統選で敗れた国民党の朱立倫を抜いている。

柯文哲は外科医から、政界入りした人物だ。かつては民進党寄りであり、蔡英文を支援していたこともあった。しかし今は、完全に同党と手を切っている。

台湾においては、民進党のイメージカラーは「緑」で、国民党が「青」だ。しかし柯文哲は、「医師の白衣」と「民進党にも国民党にも染まらない」という意味を込め「白色力量(白の力)」をスローガンに掲げる。2014年の市長選では前評判を覆して当選した。

中国共産党の支援で当選

しかし実際、柯文哲は白色どころか、"赤色"に染まっている可能性が高い。

というのも昨年11月の統一地方選で、中国共産党は「台北市では柯文哲を再選させ、高雄市では国民党の韓国瑜候補を当選させる」を意味する、「北柯南韓」をスローガンに、両者を支援していたのである。結局、中国共産党の思惑通り2人は当選した。

そもそも「白色力量」の動きも、2014年3月に起きた反中運動である「ひまわり学生運動」に対抗するために生まれたグループ「白色正義社會聯盟」の流れをくむもの。

柯文哲は、かなり中国共産党寄りの政治家なのだ。

彼が中国共産党と"ずぶずぶ"の関係になったきっかけとして、驚くべき説が浮上している。

中国の臓器狩りについて調査している米国のジャーナリスト、イーサン・ガットマン氏は昨年10月、人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療である「ECMO」の技術に長けた柯文哲が、中国共産党の「臓器狩り」に関わっていると告発しているのだ。こうした中で、中国に傾斜したのではないかと疑われている。

組織がない柯文哲の弱さ

そんな中国共産党の息のかかった柯文哲は、次期総統選で勝利できるだろうか。実際は、かなりハードルが高いと思われる。

実は1月27日、柯文哲の実力を占う前哨戦が行われた。台北市第2区で立法委員の補選が行われ、そこで側近である陳思宇(32歳、女性)が無所属で立候補したのだ。

結果は、陳思宇の惨敗で、得票率12%しか獲得できなかった。一方、民進党から立候補した前台北市議の何志偉は、得票率47.8%を獲得して当選した。柯文哲は個人の人気は高くとも、組織としてはほとんど力がないことが露呈してしまったのだ。

また、「白色力量」が仮に政党になったとしても、国民党よりも「統一志向」が強いのでは、大部分の若者には受け入れられない。

今回、陳思宇の補選惨敗は、それを物語っていよう。

次期総統選で、民進党候補と国民党候補が票の激しい奪い合いを行った場合、柯文哲市長が"漁夫の利"で勝利する可能性を排除できない。しかし、所詮、全島レベルの総統選で、組織票のない彼が"空中戦"だけで勝てるほど選挙は甘くないだろう。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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