《本記事のポイント》
- トランプ大統領がシリアからの米軍撤退を撤回し、「少数の兵力を残す」と発表
- 「イスラム国」の再拡大やトルコ軍によるクルド人武装勢力への攻撃を懸念か
- 西洋諸国の利権のみを考えた中東の国境線を見直し、歴史の反省を
トランプ米大統領は22日、シリア駐留の米軍について「少数の兵力を残す」と発表した。
昨年12月にトランプ氏が発表した、「シリアからの米軍撤退」という方針が撤回された形となる。
シリアには、これまで約2000人の米兵が駐留してきた。今後も400人が駐留し続け、シリア北部での設置を検討している「安全地帯」にも、治安維持部隊として200人が駐留する予定だ。さらに、ヨルダンやイラクとの国境沿いの南部タンフに200人が駐留すると、米メディアは伝えている。
米軍らと協力してISと戦い続けるクルド人武装勢力
トランプ氏が米軍撤退を発表してから、イスラム国(IS)の再拡大や、シリアのクルド人民防衛部隊(YPG)へのトルコ軍の攻撃などが懸念されていた。
YPGはクルド人らによって構成されている武装勢力で、シリアに駐留する米軍らと協力し合い、ISから次々に国土を奪還。今やISは、シリア東部のイラク国境近くまで追いつめられている。
戦果をあげ続けるYPGに対して、自国のクルド人勢力「クルディスタン労働者党(PKK)」をテロ組織と見なしているトルコは、かねてから「YPGをシリアから一掃する」と宣言。昨年1月には、トルコ軍がシリアに越境してYPGを攻撃し、世界から非難の声が上がった。
トランプ氏は米軍撤退を決めた後、1月13日、ツイッターに「もしトルコがクルドを攻撃すれば、トルコの経済は壊滅するだろう」と投稿。そして翌14日には、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行った。
会談でトランプ氏は、YPGを攻撃しないよう正式に要請。さらに20マイル(約32km)の安全地帯をシリアに設けることを提案したと発表している。
今回、全面撤退を撤回し、安全地帯に200人の米軍を配置するのは、トルコ軍の攻撃から、YPGを守るという意味も大きいはずだ。
西洋は歴史の反省、中東は政策の見直しを
「国を持たない最大民族」と呼ばれるクルド人は、紀元前から現在のシリア、トルコ、イラン、イラクにまたがる山岳地帯で暮らしてきた。1900年初頭まで、オスマン帝国の広大な領土の中の「クルディスタン」と呼ばれる地域で、クルドの領主が統治していた。
しかしオスマン帝国の崩壊後、イギリスとフランス、イタリアなど第一次大戦の戦勝国が、石油利権や植民地など自国の利益のみを考えて中東地域の国境線を引いたため、クルド人のかつての領土は4つの国に分割された。
現在、クルド人はそれぞれの国で独立を求めて民族活動を行っている。トルコのクルド人勢力PKKもその一つ。この勢力はトルコ共和国樹立後、およそ100年にわたって文化や言語などを抑圧され、反対の声を上げれば武力で弾圧されてきた。それは現代でも続いている。
米軍の駐留継続という判断に対する、トルコ政府の今後の動向を注視したいが、トルコを含む中東各国が、長年続けてきたクルド人への政策を見直すべきときに来ているのは確かだ。
(駒井春香)
【関連記事】
2019年1月16日付本欄 トランプ大統領とトルコ・エルドアン大統領が電話会談 欧米は今こそ歴史の反省を
https://the-liberty.com/article/15305/
2015年4月号 中東の憎しみの連鎖を断つには――国際政治にも「許し」を(Webバージョン) - 編集長コラム
https://the-liberty.com/article/9431/
2017年12月号 クルド独立、ロヒンギャ難民問題が表面化 欧州に必要な歴史の反省 - ニュースのミカタ 5