《本記事のポイント》

  • 各国政府は、IT企業を通じて一般大衆を監視しているが、規制は進まず
  • 政府の監視を「監視」する仕組みが必要
  • 日本は個人情報を保護する法整備が遅れ、「後進国」となっている

米巨大IT企業GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの総称)への規制が世界的に進んでいる。日本でも、公正取引委員会が各社に対する内部調査を行う予定だが、政府がようやく対策に乗り出した。

しかし、アメリカや中国などの政府が、そうしたIT企業を通じて一般大衆を監視している実態には、なかなかメスが入らない。一体、日本国民の個人情報保護はどうなっているのか。プライバシー保護に詳しい専門家のインタビューを紹介する(2017年10月号記事の再掲)。


中央大学准教授

宮下 紘

プロフィール

(みやした・ひろし)ハーバード大学ロースクール客員研究員、内閣府個人情報保護推進室政策企画専門職などを歴任。著書に『プライバシー権の復権』(中央大学出版部)、『ビッグデータの支配とプライバシー危機』(集英社)などがある。

NSA(米国家安全保障局)元職員のエドワード・スノーデン氏が告発した、NSAによる無差別監視の実態は、世界に衝撃を与えました。NSAは、日本の一般市民も無差別監視の対象にしていたのです。

私は、本当にテロ対策につながる必要な監視は否定しないという立場です。「プライバシーか安全か」という二者択一の議論ではなく、一般市民のプライバシー侵害を減らした上で、効果的なテロ対策をどうするべきかという丁寧な議論が必要だと考えています。

例えば以前、靖国神社のトイレで爆破事件がありましたが、だからといって全国の公衆トイレに監視カメラを設置するというなら行き過ぎでしょう。

監視を「監視」する仕組み

日本にないのは「監視に対する監視」の考えです。欧米では、テロ対策を目的とした監視も強まる一方、捜査機関が個人のプライバシーに干渉していないかチェックする仕組みがあります。

アメリカには、大統領直轄の有識者組織が存在します。ここはNSAの捜査資料を提出させ、テロと無関係な人の生活を覗き見するような監視をしていたら止めさせる権限を持っています。EUもグーグルやフェイスブックなどの企業に対し、「NSAに無条件にデータを渡すのなら、EU内で仕事ができませんよ」という対抗措置を取りました。

一方日本では、2016年に「個人情報保護委員会」という組織がつくられ、民間会社が個人情報を適切に扱っているかを監視していますが、警察などの捜査機関や公的機関は対象外です。

また、捜査機関が民間の通信会社に、ネット通信や通話記録などの個人情報を提出するように依頼した場合、誰のチェックも入りません。海外の携帯電話会社やネット企業は、捜査機関から何件情報開示の依頼が来て、そのうち何件提供したのか、ホームページなどで公表しています。これだけでも無差別監視への抑止になりますが、日本で公表しているのは韓国系企業のLINEだけです。捜査機関の透明性と国民からの信頼を高めるためにも、「監視に対する監視」の仕組みは有効だと思います。

ネット操作が政治を左右

ネット情報は中立ではないと知ることも重要です。

イギリスのEU離脱の是非を決める国民投票の前のことです。あるコンサル会社が、フェイスブックの「いいね」の履歴を元に、利用者の考えを判断し、離脱反対派に広告を流しました。

「あなたの友達も離脱に『いいね』を押しています」「EUにとどまるとこんなデメリットがあります」といった広告が繰り返し表示されることで、反対派を賛成派に導こうとしたのです。自分の考えが見抜かれ、知らないうちに情報を操作されることも、一種の「監視」と言えます。

日本はフィリピン以下でいい?

今、世界的に問題になっていることとして、個人の遺伝子情報の取り扱いがあります。遺伝子情報と検索履歴を結びつけると、病気になる確率が分かるのです。アメリカでは、遺伝子情報を入手した企業が、保険加入を断ったり、採用を見送ったりすることが起き始め、遺伝子情報に基づく差別を禁じる法律が整備されました。

しかし、日本は個人情報を保護する法整備が遅れており、100カ国以上が参加するプライバシー国際会議に正式参加できていません。フィリピンやウルグアイなどの途上国も入っているのに、参加拒否されたのです。

大量監視やプライバシー保護をめぐる国際社会の現状をまずは知っていただきたい。その上で、議論を進めていくべきです。(談)

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