《本記事のポイント》
- 防衛大の募集枠でも女子は12%、大阪電気通信大は女子に加算
- 東京医科大の問題は「非公表の男性優遇」「医師事情の認知不足」
- 大括りな「差別反対!」ではなく、冷静な議論を
東京医科大学のいわゆる「不正入試問題」が、世間を騒がせている。
同校は入学試験の際に、男子受験生を優遇し、女子受験生の合格者数を抑えるよう得点操作をしていた。
これが「女性差別である」として、大炎上している。
防衛大の募集枠でも女子は12%
一方、入試で"あからさまな男女差別"を行いながらも、特に問題になっていない学校もある。
その一つが、防衛大学校だ。
極端な例に見えるかもしれない。しかし、「東京医科大の、何が本当の問題だったのか」を炙りだすには有効な比較対象だ。
例えば、同校の「第66期学生の一般採用試験(前期日程)」の募集人数を見てみる。すると、定員300人のうち女子の募集人数は35人と、約12%しかない。
女子受験生が定員割れを起こしているわけではない。女子の受験生は3670人であり、そのうち合格者は188人。3500人ほどの女子受験生が涙を呑んでいる。
しかしそれが「不正な差別だ」と社会問題になることはない。
大阪電気通信大は女子に加算していた
こうした例は他にもある。
大阪電気通信大は2016年、公募推薦入試において「女子受験生に点数加算して優遇すること」を公表。一部で話題になった。
もちろん賛否両論あり、本欄としても積極的に評価はしないが、炎上することも、「不正」と言われることもなかった。
こうした例を見ると、東京医科大の件で問題視されたのは、厳密に言えば"特定の性別を多く合格させようとしたこと"でなかったことが分かる。
問題は「非公表の男性優遇」「医師事情の認知不足」
では何が問題だったのか。
もちろん筆頭に挙げられるのが「男性優遇を公にしていなかったこと」だろう。
必死で勉強してきた女子受験生にしてみれば、「騙された」という感情を持って当然だ。
男女に適用する合格基準・ルールを分けるのであれば、防衛大や大阪電気通信大のように、そのことを公表して"土俵も分ける"べきだった。
もう一つ浮かび上がってくる問題は、「医学部で男性優遇をする事情が、社会の共通認識になっていなかったこと」だ。
防衛大については、「自衛官という職業が、どちらかといえば男性の方に適性がある」ということが、ある程度世間に納得されている。
大阪電気通信大についても、「社会的な弱者などを優遇する『アファーマティブ・アクション』というものがある」という共通認識がうっすらとあった。
一方、東京医科大についても「系列病院の医師不足に対応するため」という事情があったとされている。
「女性の医師は、どうしても離職率が高くなる」「外科医など、体力的にハードな分野で人が足りなくなる」といった現実は、関係者からも聞こえてくる。
しかし防衛大や大阪電気通信大のように、医師不足の事情や深刻さは共通認識となっているわけではない。
その理解を求めるどころか、説明さえないまま点数操作がなされていた。これは一種の「怠慢」であり、「根拠の薄い男性優遇なら、偏見で女性を下に見る『差別』であって、『区別』ではない」「公共の幸福につながるわけでないなら、『法の下の平等』『職業選択の自由』に反する」と批判されても、甘んじなければならないだろう。
大括りな「差別反対!」より冷静な議論を
今回の件で本当に問題だったのは「公表しなかったこと」であり、今後論点とすべきは「男性優位にする事情が、社会的に納得されるか」だろう(さらに事情の根源を探れば、最終的に「政府の医学部定員抑制が医師不足を招いた」という問題に行き当たる)。
いずれにせよ、防衛大や大阪通信大と比較すると、「女性差別反対!」といった大括りな批判ではなく、冷静な議論が求められることが分かる。
(HSU未来創造学部 瀧川愛美/馬場光太郎)
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