日本には木造の塔が数百カ所あり、日本国民に「心の原風景」を示してくれている。
《本記事のポイント》
- 日本には数多くの木造の塔があるが、地震で倒壊したものはほとんどない
- だが、耐震技術のメカニズムは、現代でも分かっていない
- 優れた建築技術を持つ五重塔は、信仰の象徴に加え、泰然自若とした生き方を示す
今夏は、大阪北部地震や西日本豪雨などの自然災害が相次いだ。
多くの住宅に深刻な被害をもたらす中、日本に数百カ所存在する木造建築「五重塔」は健在だった。歴史をさかのぼってみると、五重塔は、落雷や台風で倒壊した例はあっても、地震で倒壊した例はほとんどない。
世界遺産である、奈良・法隆寺の五重塔は、現存する世界最古の建築物として知られる。驚くことに、畿内では少なくとも40を超える大地震が発生したが、塔が倒れることはなかった。東京・浅草寺や寛永寺の五重塔も、マグニチュード 7.9の関東大震災の被害を免れている。
自然災害が多い国柄を考えれば、歴史の奇跡と言っていい。
現代人でも分からない古代の建築技術
法隆寺の五重塔の心柱は、外から見ることはできないが、地中から垂直に突き出ている相輪(そうりん)の下まで貫いている。
塔が倒れない理由は、民衆の深い信仰心を挙げることができるが、やはり優れた建築技術も大きい。
例えば、法隆寺の五重塔は、飛鳥時代の594年に造られたとされている。この巨大建築物を支えているのが、耐震技術の一種である「心柱(しんばしら)」だ。東京スカイツリーが、この技術を応用しているのは有名な話である。
だが、どうして心柱に制振効果があるかは、現代の科学でも分かっていない。さまざまな説があるが、古代の日本人は、現代人でも解読できない技術を駆使し、巨大構造物を建設したというわけだ。
日本の建築技術は世界屈指だが、日本は古来、「建築技術の先進国」だった。
日本古来よりある「柱信仰」
心柱という言葉があるように、日本には元来、「柱」に対する信仰がある。
『古事記』には、「天地初めて發けし時、高天原に成りし神の名は、天之御中主神、次に高御産巣日神、次に神産巣日神、この三柱の神は、みな獨神と成りまして、身を隱したまひき」とあるように、神のことを「一柱、二柱」と数える。
家庭においても、一家を支える存在を「大黒柱」と呼ぶが、そうした柱にまつわる言葉や由来はそこかしこにある。
柱は、天と地を結ぶ架け橋のような存在であり、神と人をつなぐシンボルだ。そのため、塔の心柱も、他の構造物に比べて「神秘的」と評されている。
五重塔は人生の生き方を示す
かつて、「知の巨人」である幸田露伴は、24歳の若さで手掛けた代表作『五重塔』で、「生雲塔(しょううんとう)」と呼ばれる塔の建立に執念を燃やす大工を描ききった。
圧巻なのは、塔が暴風雨にさらされる描写。嵐は多くの建物をなぎ倒したが、大工が造った生雲塔の釘は一本もゆるまず、無事だった。
小説で描かれているように、自然災害の中でも超然と立ち続ける塔は、「人生の荒波に負けてはならない」ということを人々に示しているかのようだ。
五重塔は、現代人も舌を巻く優れた建築技術に加え、信仰の象徴や人々に泰然自若とした生き方を示すなど、さまざまな魅力を感じさせる存在だ。五重塔を仰ぎ見た時には、単なる木造建築物ではなく、そうした魅力に思いを巡らせてみてはいかがか。
(山本慧)
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