2018年9月号記事

マレーシア政権交代ルポ

「脱中国」に動くアジア

トランプ政権1年半の米中対決

米中貿易戦争の影で、アジア諸国が「中国離れ」を進めている。アジア取材を重ねてきた筆者は、歴史的な政権交代が行われたマレーシアに飛び、その真相に迫った。

(編集部 小林真由美)

「中国の独裁政権がその覇権主義的な野心をアジアにまで広げようとする企てには、断固として反対します」

「中国の覇権的な膨張を抑え込みつつ、平和的な発展を促すため、最も重要かつ必要なものは日台の協力関係をより一層強化することに他なりません」

親日家として有名な台湾の李登輝元総統は6月末、沖縄を訪れ、講演でそう語った。李氏が公の場でここまで激しく中国を批判するのは極めて異例だ。

筆者は2011年から、台湾と中国の上海に留学した。中国の経済成長が著しく、各国がチャイナマネーを取り込もうと躍起になっていた当時と比べると、その状況はかなり変わっているようだ。

ストップ「一帯一路」の動き

顕著なのが、中国の資金援助で道路や鉄道などのインフラを建設する「一帯一路(シルクロード経済圏)」構想から、各国が距離を置き始めていることだろう。

例えば、マレーシアでは今年5月、親中派の政権が倒れた。首相に返り咲いた親日派のマハティール氏は、中国からの大型投資計画を次々とキャンセル(39ページの現地ルポで詳述)。ミャンマー、ネパール、パキスタンなどでも同様の動きが見られる(上図)。

中国の軍事的・経済的圧力に沈黙していた台湾も、近年、中国に屈しない姿勢を見せている。

蔡英文総統は2017年、独立志向の強い頼清徳氏を行政院長(首相に相当)に迎えた。台南市長だった頼氏は16年当時、筆者のインタビューに応じ、「台湾は一つの主権国家。台湾人の大多数は台湾を独立国家と認識している」と語っていた。

今年6月には、台北市に、アメリカ大使館に相当する「米国在台湾協会」が設置された。中国から台湾を守るために重要となる米台関係が強化されつつある。

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Taiwan

事実上のアメリカ大使館「米国在台湾協会」が開所

2018年6月、台北に「米国在台湾協会」が開所。米国務省は警護のため米海兵隊を派遣させる考え。台湾を守る体制を強化した。

Nepal

政府は2017年、中国企業と合意した25億ドル(約2810億円)規模の水力発電所建設計画を中止した。

Myanmar

2018年7月、中国が進める港湾開発事業の規模縮小を求めた。

Philippines

中国との間に南シナ海問題を抱えるドゥテルテ政権は2018年5月、「フィリピン軍が挑発や攻撃を受ければ、中国との戦争も辞さない」と発言。

Pakistan

2017年、中国が資金援助と建設作業を申し出たダムと水力発電所の建設を「国益に反する」と拒否。

Malaysia

親中派政権が倒れ親日派政権が誕生

2018年5月の総選挙で親中派のナジブ政権を破り、首相に返り咲いた親日派のマハティール氏は、中国の大型インフラ投資計画を中止。

Sri Lanka

中国の援助による港湾建設に住民が抗議

政府は2017年、中国の援助で建設したハンバントタ港の運営権を中国へ引き渡した。だが、同港の軍事拠点化が懸念されており、住民は抗議デモを行っている。

次ページからのポイント

トランプの登場で大転換したアメリカの対中政策

Malaysia Report マレーシア国民が政権交代を望んだ理由

大川総裁がマレーシアで語った「民族融和」の教え

「中国離れ」のアジアは日米のリーダシップに期待

写真:AP/アフロ 写真:AFP/アフロ 写真:AP/アフロ