《本記事のポイント》
- 「教員養成」に長年携わっていた容疑者
- 文科省は、清廉潔白なら出世できない組織なのか?
- 教育無償化のため8000億円を託していいのか?
「おぬしも悪よのう……」「お代官様ほどでは」
まるで時代劇の悪代官のように古典的な収賄だ。
文部科学省の佐野太局長が、東京医科大学に補助金を獲得できるよう便宜を図った見返りに、子供を不正に合格させてもらった疑いがあるとして逮捕された。
東京医科大は昨年11月、文科省の「私立大学研究ブランディング事業」に選定され、3500万円の補助金を受けていた。しかしその前年度、ほとんど同じ事業計画で補助金受給に応募し、落選していた。
「教員養成」に長年携わっていた
実は、佐野容疑者の経歴をさかのぼると、「大学教員の養成」に深く携わっている。
佐野容疑者は2004年、同省の高等教育局主任大学改革官として「教員養成担当」をしていた。例えば、教育関係者のシンポジウムで「教員養成のあり方」について持論を長時間語ったといったという話もある。
さらに、国立の山梨大学に出向し、副学長に就任してもいる。そこでは、理科教員を目指す大学生の育成事業を行っていたと報じられている。
直接的に「先生の先生」として仕事をしていたわけだが、文科官僚である時点で「教育者の教育者」と言える。
佐野容疑者は、高等教育局私学部参事官だった。私学教育の指導・監督に携わっていたわけだ。
そして、大臣に直属する組織「大臣官房」のトップや、「科学技術・学術政策局」のトップも務めた。さらには、事務方トップである「事務次官」候補とも言われていた。
「悪代官」が、「教育者の教育者」として、その頂点に登りつめようとしていた――。この事実から、日本の教育行政の"歪み"が改めて浮かび上がる。
文科省は、清廉潔白なら出世できない組織なのか?
「人数が多ければそういう人もいる」という見方もあるかもしれない。
しかし文科省といえば、幹部による「組織的な天下り斡旋」や「加計問題」などで騒がれていた省だ。「清廉潔白な人物は出世できない組織なのでは」と疑われても仕方がない。
また、佐野容疑者が「普段は高潔な教育者だが、たまたま魔が差しただけ」というわけでもなさそうだ。
「裏口入学」が画策されていた時期は、「天下り問題」「加計問題」「出会い系バー問題」などに関する報道が過熱していたタイミングと重なる。佐野容疑者自身、「天下り問題」において官房長としての監督責任を問われ、「厳重注意」という処分を受けている。
そんな佐野容疑者が「裏口入学」を画策した東京医科大は、「天下り問題」発覚のきっかけになった大学だ。それでも不正を働くことが「怖くなかった」というなら、"筋金入り"ではないか。
教育無償化のため8000億円を託していいのか?
補助金や許認可権などをちらつかせて、幹部が個人的な利益を得る――。こうした体質を持つ組織に、今流し込まれようとしているのが、「高等教育無償化」のため、消費税率引き上げ分から捻出される8000億円の血税だ。
それも、無償化の対象となる大学には「要件」が設けられるとも言われている。つまり、授業料支援を受けられる大学を、また文科省やその関連組織が審査するというわけだ。同様の不正の温床になりかねない。
一連の不祥事は、無償化を踏みとどまるきっかけとするべきではないか。
(馬場光太郎)
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