《本記事のポイント》
- サッカーW杯の広告で存在感を示す中国企業
- チャイナマネーが欧州サッカーを席巻しているが、勢いはトーンダウン
- 背景には、中国当局の規制と、トランプ氏の対中強硬政策
日本対セネガル戦で注目を浴びているサッカーW杯ロシア大会で、中国代表は出場を果たすことはできなかった。しかし、広告という"出場枠"であれば、文句なしの世界一に輝いている。
国際サッカー連盟(FIFA)と契約する主要スポンサー全12社のうち、中国企業は4社を占める。広告支出を国別で比較すると、1位の中国は8億3500万ドル(約920億円)で、2位のアメリカは4億ドル(約441億円)となっている。
これについて、中国国営新華社通信は「2018年サッカーワールドカップに、中国は出ている」と報じている。中国の習近平国家主席もサッカー好きとして知られており、2050年までに中国を「サッカー大国」にする目標を掲げ、30年以降のW杯開催を目指しているという報道もある。
チャイナマネーが欧州サッカーを席巻
中国マネーは、欧州サッカーにも及んでいる。
例えば、リー・ヨンホン氏率いる中国資本グループは2017年、イタリアの名門クラブACミランを7億4000万ユーロ(当時約860億円)で買収した。中国家電量販最大手の蘇寧雲商集団も、ACミランのライバルであるインテル・ミラノ株の約70%を取得。チャイナ・メディア・キャピタルは、英プレミアリーグのマンチェスター・シティ株の13%を保有し、同チームの育成システムを中国に移転している。
ACミランとインテルの伝統の一戦が「中国化」するなど、チャイナマネーの広がりによって、「欧州サッカーは中国に乗っ取られる」という懸念が起きている。
中国当局の資本規制でトーンダウン
しかしその勢いは、中国当局が昨年、外貨流出を規制した結果、トーンダウンしている。
今回のW杯の主要スポンサーである中国不動産大手ワンダ・グループ(大連万達集団)は、海外企業を精力的に買収し、事業を拡大させてきた。しかし、中国政府の規制によって、財政運営の見直しを迫られ、同社は今年、スペインの名門クラブであるアトレチコ・マドリードの株式をすべて売却した。
また昨年、ACミランの新会長となったリー・ヨンホン氏も、中国の規制によって買収資金を調達できなかった。最終的には、高金利の融資を得たことで交渉を成立させたが、その借入金の一部は、今年10月までに返済しなければならず、再売却の可能性が浮上している。
そして中国国内サッカーの「スーパーリーグ」も、毎年のように、ブラジル代表のパウリーニョやロビーニョといったスター選手を獲得し、話題を呼んでいた。ところが、昨夏の移籍市場は小幅な取引に終わっている。
米欧が中国からの投資・買収を制限
中国当局が爆買いに歯止めをかけた背景には、海外への不正な資本流出への警戒に加えて、米欧が中国に対して厳しい措置を取り始めた政策転換がある。
米欧では昨年より、安全保障を理由とした、中国からの投資や買収を拒否するケースが増えている。特に、トランプ米大統領が中国に強硬姿勢をとったことで、中国からの資本が流出。その余波が、欧州サッカーを所有している中国人オーナーを直撃している形だ。
欧州サッカーが中国の国威発揚に利用され、中国に乗っ取られるという懸念が起きている。しかし、それを"救っている"のは、トランプ氏の対中強硬政策と言える。
ファンとしては、サッカーが健全な方向で発展することを願いたいものだが、米中の覇権をめぐる"絶対に負けられない戦い"にも注目したい。
(山本慧)
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