《本記事のポイント》
- 北京大学付属病院が、精子バンク提供者の必須条件に「共産党への忠誠心」を明記
- 調査では、中国人学生の6割が「子供の遺伝子を重視」
- 「科学万能主義」にのみこまれないだけの倫理観や宗教的価値観が必要
中国の北京大学付属病院が、院内の精子バンク提供者の必須条件として「中国共産党への忠誠心」を明記したことが注目を浴びている。多くの海外メディアがこのほど報じた。
同病院は今月4日、精子提供を呼びかけるキャンペーンを開始。メッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」にキャンペーンの告知記事を掲載した。
同記事に、提供者の条件として「社会主義の祖国を愛し、共産党指導部を支持し、党の理念に忠誠を誓い、品行方正で法律を順守し、いかなる政治的な問題もない」ことが記された。
その後、記事は削除されたが、精子提供を呼びかけるキャンペーンは5月末まで続くという。
精子にまで"忠誠心"を求める北京大学について、ネット上では揶揄する声もあがっている。
中国に広がる「遺伝子至上主義」
笑い話にも思えるような事例だが、根深い問題が垣間見える。
岡山大学が2012年から2013年にかけて、日中韓3カ国の大学生1668人を対象に行った調査によると、遺伝子への意識に差が見られた。
「精子バンクを利用してでも、優れた資質の子供を持ちたいか」という設問に、日本の大学生94.2%が、「全く思わない」「あまり思わない」という否定的な回答が圧倒。これに対し、中国の大学生60.1%が、「思う」「強く思う」と答え、日本とは逆に、肯定的に捉えていたのだ(中国と同様に、韓国の学生も肯定的な回答をした割合が日本よりも高かった)。
共産党への忠誠心を条件づけた背景には、遺伝子が人間を決めるという「遺伝子至上主義」がある。この考えは、共産党の内部のみならず、中国全体に広がっているようだ。
「科学万能主義」の弊害
優秀な子供を授かるために優れた遺伝子を選ぶという考えは、一見、理に適っているようにも見える。
しかし、「遺伝子が人間を決める」という考え方が行き過ぎれば、遺伝子操作によって子供の特性を"デザイン"することも可能になる。これは、作家のカズオ・イシグロ氏の著書『わたしを離さないで』で描かれたような、臓器移植のためにクローン人間をつくる世界も実現しかねない。
中国は、世界で初めてヒト受精卵の遺伝子改変を発表するなど、遺伝子分野の研究に熱心な国でもある。しかし、科学の進歩と両立できるだけの倫理観や哲学、宗教的価値観がなければ、人間が「科学万能主義」の"奴隷"になり、AI(人工知能)に支配される未来も起こり得る。そうした「科学万能主義」に陥らないよう、注意が必要だ。
(片岡眞有子)
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