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通商を巡るドナルド・トランプ米大統領の動きに注目が高まっている。17、18日(日本時間18、19日)の日程でアメリカで日米首脳会談が行われ、日米の通商問題などが議論された。

会談に先立ち、トランプ氏は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への復帰を検討するよう、議員らに指示。その一方で、初日の会談終了後、ツイッターに「日本はアメリカをTPPに連れ戻そうとしているが、私はTPPが好きではない。2国間の取引の方が効果的で有益だ」と投稿し、日米自由貿易協定(FTA)に意欲を示すなど、本音がつかみづらい状況にある。

トランプ氏の動きに日本では戸惑いの声も広がっているが、日米で通商交渉を進めていくにあたって抑えておくべき論点が大きく2点ある。

それは、トランプ氏が世界貿易機構(WTO)の役目を肩代わりしているということ。そして、どのようにして経済的な中国包囲網を形成するかということだ。

WTOの尻拭いをするトランプ

トランプ氏による制裁関税などの通商戦略は、主に中国を視野に入れたものだ。

ハドソン研究所中国戦略センター所長で米国防総省顧問を務めるマイケル・ピルズベリー氏は、トランプ氏による制裁関税を「歴史的な判断」だと評している。

同氏は2015年に『The Hundred-Year Marathon: China's Secret Strategy to Replace America As the Global Superpower(邦題:China 2049)』を発刊し、中国が世界覇権を握るための秘密戦略「100年マラソン」を明らかにした、中国研究の第一人者だ。

同氏は3月、米ブライトバートニュースの取材に対し、このように述べた。

「ジョージ・ブッシュ元大統領やバラク・オバマ前大統領のような過去の大統領は、中国の不公平な貿易慣行について愚痴や不満を言い、スピーチをしてきましたが、何も行動を起こしませんでした。トランプ大統領が目指す方向は正しく、中国製品に関税をかけるという歴史的な判断は、こうした過去の大統領に一撃をくらわせるものとなります」

その上で、今までアメリカがWTOを介して中国を提訴してきた過去に言及し、トランプ氏の関税措置がそうした訴訟を大いに上回る効果があるとした。

中国が国際貿易のルールを無視していることは公然の事実。特に、ブランド品の模倣や技術の移転といった知的財産の侵害は著しい。

しかし、ピルズベリー氏が語るように、WTOは違反行為を繰り返す中国を止められなかった。一部行為に対して違反勧告をしてきたものの、今なお知的財産権侵害などの暴挙は続けている。WTOが止められなかった中国を、トランプ氏は二国間の制裁関税によって抑えようとしているのだ。

「中国包囲網」が目的だったTPP

TPPについて考える上でも、「中国包囲網」という視点が不可欠だ。

TPPは事実上、経済的な「中国包囲網」の役割も担っている。TPPに含まれる「知的財産権の保護」や「人権重視」といった概念を、中国は受け入れられないからだ。ただ、あくまで「連合」に過ぎないため足並みがそろわない可能性もあり、トランプ氏のように二国間で交渉する方が確実である。

アメリカがTPPに復帰するかどうかは不明だが、もしアメリカが中国への関税制裁を続けながら中国包囲網としてのTPPが完成すれば、中国にとってますますの痛手となるだろう。

いずれにせよ、今後日本がアメリカと通商交渉していくにあたり、「WTOに変わってアメリカが中国を止めようとしている」という点を抑えておく必要がある。

軍事的にも経済的にも覇権を強める中国に対する戦略をこそ、日米は話し合うべきだろう。

(片岡眞有子)

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