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《本記事のポイント》

  • 米中貿易戦争が危惧される一方、中国の劣悪な労働環境は無視されている
  • ダンピングや企業誘致を可能にしたのは、安価な人件費
  • トランプ氏を批判するより、国民を「手段」としてきた中国を批判すべき

新聞各紙の一面で米中貿易戦争の可能性がささやかれている。

トランプ政権は、22日から23日にかけて、中国製品に対する関税制裁や輸入制限を発表した。22日、ドナルド・トランプ米大統領は、中国政府が中国に移転する米企業に対して技術の移転を求めてきたことについて、アメリカの知的財産権を侵害しているとして、家電や通信機器などの中国製品に25%の関税を上乗せすると公表した。対象製品は1300品目に及ぶとされ、総額500~600億ドル(約5.2~6.3兆円)規模の関税措置となる見込みだ。

翌日の23日には、カナダやメキシコなどの7カ国・地域を除く国に対して、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動した。鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税が上乗せされる。

鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に対して、中国商務省は23日、アメリカから輸入するワインや果物、豚肉など128品目の関税を最高25%引き上げる準備をしていると発表した。

いずれ"関税合戦"が白熱し、米中両国のみならず、世界各国が損害を受けるのではないかと危惧されている。

無視される中国の劣悪な労働環境

世界中のメディアが米中貿易戦争の可能性を指摘する一方で、無視されている問題がある。中国の労働環境だ。

中国が鉄鋼やアルミニウムを安く輸出できる要因の一つは、人件費の安さだ。外国企業に対しても、人件費の安さをアピールし、技術の移転と引き換えに誘致を実現している。以前より高くなってはいるものの、今なお多くの労働者が十分な給料を得られないまま、劣悪な環境で働き続けている。

賃金の未払いや長時間労働に加え、手袋やマスクが配給されないまま有毒化学製品を扱う労働環境も報告されている。こうした劣悪な労働環境に従事している人の多くが、農村に戸籍を持つ出稼ぎ労働者だ。その数は2億8700万人に達すると言われているが、中国では戸籍を自由に移動できないため、子供を農村に残したまま都市部に移住する出稼ぎ労働者が多い。その結果、6000万人以上の子供が農村で親と離れたまま暮らしているという。

ダンピングや企業誘致という中国の国家戦略は、億単位の国民を犠牲にして成り立ってきたと言える。

非難すべきは国民を手段にしてきた中国

トランプ氏の関税措置について、多くのメディアが「自由貿易を破壊する行為」だと批判している。しかし、追及すべきはむしろ、国民を犠牲にして貿易黒字を出し、外国企業から技術を盗んできた中国の方だろう。

トランプ氏は、レックス・ティラーソン国務長官の後任として中央情報局(CIA)長官のマイク・ポンペオ氏を、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の後任としてジョン・ボルトン元国連大使を起用する方向だ。

ポンペオ氏もボルトン氏も、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏の考えに近いため、中国への強硬姿勢は今後も続くと予測される。トランプ氏の対中戦略を機に、国際社会は中国の人権問題や不公正な貿易問題にこそメスを入れるべきだろう。

(片岡眞有子)

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