《本記事のポイント》

  • 累進課税による所得の再分配は、実際は機能していない
  • 高い累進課税は経済発展を阻害し、既得権益を守る
  • 高所得のサラリーマン増税が決まったのも、多数派による少数派への差別と言える

昨年末に閣議決定された税制改革法案がこのほど、国会で審議入りした。なかでも最も注目されているのが、高所得のサラリーマンへの増税である。政府・与党は、年収850万円以下の会社員の給与所得控除を一律10万円減らすなど、所得税の仕組みを変える方針だ。

所得税の税負担が拡大する方向だが、野党は、所得が高ければ高いほど税率を引き上げる累進課税の強化を求めている。

日本では、そうした累進課税を強化する議論が、ほとんど無批判で受け入れられているが、実は、累進課税には様々な問題点がある。その代表的な反対論者であった、自由主義の経済学者フリードリヒ・ハイエクの主張を紹介したい。

所得の再分配は機能しているか?

累進課税の目的は、一般的に、「所得の再分配を行う」ことである。政府は、所得の再分配の機能を高めるため、所得税を増税している。これについてハイエクは、社会保障の必要性を否定しなかったものの、それを累進課税で行う考えには反対だった。

累進課税は、高所得者層から低所得者層へ所得を移転させるものだが、所得を平準化させることはできない。現行の累進課税では、課税所得が4000万円を超えると、最高税率の45%が課されるように、7つに課税が区分されている。ハイエクは、もし富裕層の所得を平準化させようとすれば、区分を計り知れないほど細かくする必要があり、その試みは現実的ではないと指摘する。

実際、日本の所得税の実効税率をグラフにすると、年収5000万~1億円のアッパーミドル(中上)層を頂点とした「U字型」になっている。所得がその水準を超えると、むしろ実効税率が下がる。所得があればあるほど、直線状に負担が増えるわけではないのだ。

つまり、日本の税制では、海外に持ち出すほどの資産を持たない小金持ちが標的になっている。とすると、累進課税が目的としている所得の再分配機能を果たしているとは言えまい。

高い累進課税は経済発展を阻害する

累進課税を高くすれば、何が起きるのか。

ハイエクはその批判の一つとして、短期間で成功した人々は、高い課税によって資本を蓄積できず、企業の発展が阻害される一方、すでに大きな規模を持つ企業は、新規参入が阻害されるので、既存の市場シェアや既得権益を守ることができると主張する。

つまり、累進課税は、経済の新陳代謝を生まず、経済発展にはマイナスに作用する。

多数派による少数派への差別が起きる

さらにハイエクは、「累進課税で利益を得るのは、実は、貧困層ではなく、中間層の人々である」と、政治的な問題点も主張する。

中間層は、最も投票力を持っているため、彼らにとって都合のいい税制が導入されやすい。今回の税制改革でサラリーマン増税がすんなり決まったのも、増税対象者が全体の4%しかいないためだ。民主主義にはつきものだが、「多数派による少数派への差別」が起きていると言えよう。

一定の所得が望ましいという幻想

こうして見ると、累進課税は、理論的にツッコミどころが満載の税制であることが分かる。にもかかわらず、このシステムが支持されている背景には、「金持ちから金を取ればいい」という一般観念がある。

しかし、その考えは、歴史が証明しているように、マルクスの共産主義と同じ発想であり、国を豊かにするものではない。

一般観念の中には、「ある一定の所得が望ましい」という主張があるが、その考えも主観的であり、政府の恣意的な判断が入りやすい。客観・公平であるべき税制が、そうした考えをベースにすべきではないだろう。

確かに、富裕層は貧困層より税を負担する能力がある。この考えを応能負担といい、税の公平性を担保している。だが、所得に関係なく、サービスに対価を払う応益負担の考えを取る税制もある。累進課税とは別の形で、税の公平性を実現できる。

累進課税には数多くの問題があり、それを強化して行き着く先は、お金持ちがいなくなる世界である。そんな国に住みたいだろうか。

(山本慧)

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