《本記事のポイント》
- 日本の製造業の未来を危ぶむ不祥事が多発している
- アメリカではかつて、基幹産業の衰退は、教育の荒廃が原因として改革が行われた
- アメリカの家庭教育では、聖書に次いで「修身」が教え込まれた
日産自動車やスバルの完成検査の不正問題、東レの子会社でのデータ改ざんなど、企業の不祥事が頻発している。「日本の基幹産業である製造業の競争力低下」と未来を危ぶむ声が出ているが、原因は何なのか。
実は、同じ悩みを抱いていたのが、アメリカのレーガン大統領だ。
基幹産業の衰退は教育の荒廃が原因
国家の再建を目指すレーガン政権は、発足するや否や「危機に立つ国家」(1983年)というレポートをまとめた。
「わが国は危機に直面している」という書き出しから始まるレポートには、「今アメリカは、かつて基幹産業と言われていた鉄鋼や自動車などの部門をドイツや日本に追い抜かれている。その原因は何か。それは教育である」と記され、教育の荒廃によって、アメリカ基幹産業は衰退したと分析した。
それまでの教育界では、「子供の自主性を重んじる教育」を行った結果、子供の学力が低下し、不良行為が相次いだ。報告書にはその一例として、「17歳の若者のうち、約13%の読めない……」という記述があるほど、最悪の状況だったという。
レーガンは「古き良きアメリカに返れ」
そうした中、レーガン大統領は、「古き良きアメリカに返れ」「子供の自主性を重んじる政策を見直す」などの教育方針を掲げ、アメリカ版ゆとり教育を一掃しようとした。
政府の危機感に触発されたためか、本来、教育行政は州の専権事項であるのにもかかわらず、各州は迅速な対応を見せる。35州が「高校卒業要件の強化」、29州は「テストの改善」、28州が「教員の養成・教員免許の改善」の実施に踏み切った。
またレーガン政権は、学校で祈りを行ったり、聖書を読んだりする時間の復活を提言。背景には、ソ連が奉じる共産主義に対抗するためには、「キリスト教の信仰」を武器にしなければならないという信念があった。
こうした一連の改革によって、シリコンバレーの若き起業家が多く生まれる下地となったと言われている。
日本の修身がアメリカで大ヒット
さらに興味深いことは、レーガン政権の文部長官を務めたW・ベネット氏は退任後、改革のノウハウを『The Book of Virtues(道徳読本)』という名前で出版したことだ。
830ページに及ぶ大著は、毎年のようにベストセラーとなり、ついには3000万部を超え、「第二の聖書」と呼ばれるほどに普及した。
この本の種本こそ、戦前の日本の学校で教えられていた「修身」だった。修身の内容と同じように、『The Book of Virtues』には、自己規律や思いやり、責任、友情、勇気、忍耐、信仰などの10章で構成され、人格形成に役立つ内容が盛り込まれた。
つまり、修身は、アメリカの家庭教育として使われ、国家繁栄の礎となったのだ。
日本の製造業で起きた度重なる事件によって、企業の倫理観の喪失が問題視されているが、これは、社会全体にも当てはまる事例と見るべきであろう。学校教育における宗教や道徳の復活こそが、製造業を発展させるカギとなる。
(山本慧)
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