公立小中学校に非正規で雇われている「臨時的教員」が、全国で4万人以上いることが、文部科学省のまとめで分かった。各紙が報じた。
臨時的教員は、その雇用期間がおよそ1年と定められており、年度末に解雇され、再び採用されることが多い。今回は、臨時的教員の給与が正規雇用教員の5~8割程度にとどまるなど待遇に差があるのに、仕事内容は正規雇用教員とほぼ同じであるという点が問題視された。
27日付の読売新聞は、政府の働き方改革実現会議の委員を務めた東大教授の意見を載せ、このような教員の雇用形態を見直す必要性を報じた。
昨年実施された文科省の調査によって、小学校教諭の3割、中学校教諭の6割が過労死ラインを超えていることが判明し、文科省も年内に対策を講じようとしている。
教員は「聖職者」
臨時的教員の働き方改革の背景には、「同一労働同一賃金」を進め、正規雇用者と非正規雇用者との所得格差を軽減するという政府の意向もあるだろう。
だが、教員を「労働者」とみなし、労働時間あたりの待遇を同じにしようとしたり、労働時間を減らしたりする形での安易な「働き方改革」を推進する流れには注意が必要だ。
原点に戻って考えれば、教師は「聖職者」とも言うべき存在である。教師の仕事は、多くの子供たちの将来や生死にもかかわる。
国際経済労働研究所が2010年から2011年にかけて行った「教員の働きがいに関する意識調査」によると、「仕事が楽しい」と回答した割合は、一般企業の従業員平均が35.8%のところ、教員は67.0%との結果だった。また、「今の仕事にとても生きがいを感じている」と回答した割合も一般企業平均が26.8%に比べ、教員は67.6%と高水準を記録している。
これらの数値からもわかるように、本来、自らの仕事を誇りに思っている教員は多い。教員の仕事は「自らの存在が児童・生徒から必要とされている」「(教育という仕事に)夢を感じている」といったモチベーションによって支えられている。
一方、同調査では、若い教員は意欲的だが、高年層ほど意欲が低下しているとの結果も出ている。
教員を長く続けるにつれて「教師は聖職である」といった意識が低下し、これが多忙な仕事への不満を助長している可能性も考えられる。
教員の労働環境改善を求める議論はもっともだが、まずは現場で働く教員一人ひとりの意識改革に取り組むことが先決だろう。
教師を萎縮させる訴訟リスク
また、教員の疲弊は長時間労働によるものだけではないようだ。
近年では、学校や教員に対してクレームをつける保護者、いわゆる「モンスターペアレンツ」の急増が教員の仕事や心労の増加の一因となっていると見られる。
保護者から訴えられるリスクに備え、訴訟保険に加入する教員も増えており、東京都の公立学校職員約5万9000人のうち、加入者は2万1800人にも上るという。
保護者からの要求にはもっともなものもあり、教師の側もクレームを減らす工夫を凝らす必要がある。
だが、教員の半数が訴訟を恐れているという現状は、教師と親の信頼関係が破綻していることを意味する。
教師の意識改革やスキルアップはもちろんだが、保護者の側も教師に多くを求めすぎたり、教師を見下したりすることは望ましくない。教師と保護者がよい関係を築き、共に未来を担う子供たちを育てていこうという意識を持つことで、教員の疲弊も軽減するだろう。
教育の現場に必要とされているのは、教員の勤務時間や待遇の改善だけではない。
次世代を担う人材を育てるという教育の価値や、教員という職業の尊さを社会全体で再認識することが、本当の意味での「働き方改革」につながるだろう。(詩)
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