《本記事のポイント》
- ミサイル攻撃想定について都道府県にアンケート
- ほとんどの自治体が被害想定行わず
- 理由は「パターン多すぎ」「経験ない」
もしJアラートが鳴り、北朝鮮の弾道ミサイルが飛んできた場合、どこに避難すればいいだろうか。
そして、そう遠くない場所に着弾したミサイルが、核兵器や化学兵器だと分かったら、どこに逃げれば安全なのだろうか。
北朝鮮は29日早朝にも日本海に向けて弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。しかも今月は、14日、21日に続き、3週続けての発射だ。
いざというとき、「自治体が、迅速に、正しい指示をしてくれる」と思いたい。しかし、なかなかそうはいかなそうだ。
ミサイル攻撃時の対処計画はたった9行!?
編集部では、各都道府県に「ミサイル攻撃を受けた場合の対策の現状」についてアンケートを行った。
例えば、「核ミサイルや、化学兵器搭載のミサイル攻撃を受けた場合の、被害の想定や、避難先の具体的設定、及び救援物資の手配などのシミュレーションはされていますか」という質問をぶつけてみた。
上画像のような、"率直な"回答も散見されたが、中でも多かったのは以下のようなコメントだった。
「県国民保護計画に基づき、武力攻撃等を受けた場合の対応を定めているが、事態ごとのシミュレーションは行っていない」(愛知県)
「国の基本方針に沿って策定した県の国民保護計画に基づき、武力攻撃災害への対処等を行うこととなる。ただし、核ミサイル等の本県における具体的な被害想定等はない」(山梨県)
ここに書いてある「国民保護計画」とは、国から策定するよう義務付けられている、武力攻撃などへの対策のこと。とはいっても、「計画」というより、「方針」というレベルのものだ。
例えば、ある県の「計画」を見ると、「弾道ミサイル攻撃」の場合の対処については、たった9行ほどの記述しかない。
その中に、次のような文言がある。
「知事は、着弾直後については(中略)、被害内容が判明後、国の対策本部長からの避難措置の指示の内容を踏まえ、他の安全な地域への避難の指示を行う」
他の安全な地域ってどこなんだ……と言いたくなるが、それは、事態が起きてから考えるということだろうか。そのシミュレーションが事前にできている様子はない。
核攻撃にしろ、化学兵器攻撃にしろ、放射性物質や化学剤は風に乗って素早く拡散する。一刻を争う事態になった時に、何らのシミュレーションもしていないまま、即座に避難計画をつくれるのだろうか。
詳細なシミュレーションは難しくても、着弾地点や風向きを数パターン想定して汚染などの情報を得られる体制を整えておくだけでも、いざというときの避難指示を迅速に出せるのではないか。
2011年の福島第一原発事故でも、放射性物質が流されている方向に避難をしてしまった人が大勢いた。この反省を生かさなければいけない。
シミュレーションしない理由は「知見ない」「経験ない」
なぜシミュレーションを行わないのか。その理由については、以下のような回答が目立った。
「自然災害と違い、地方自治体には知見がない」(千葉県)
「経験がないことに対する対策の困難さがある」(三重県)
「武力攻撃災害には様々なケースがあること、また詳細な被害想定を行うことが難しいことから、明確な対処方針が立てられない」(山梨県)
「弾道ミサイルにおいては、その種類、着弾する場所、気候など諸条件により被害の様相は変化するため、個別具体的な事案の設定、シミュレーション等は行っていない」(沖縄県)
要するに、「どうすればいいか分からない」「パターンが多すぎて大変だ」ということだ。自治体も困っているのが実情のようだが、なおさら、事態が起きてからの迅速な対応に期待できない気がしてくる……。
「国が被害想定示さないから……」
シミュレーションを行わない理由として、国からの情報不足などを“課題"とする自治体も多かった。
「核ミサイルの規模の想定は行っておらず、その規模では県で対応できる範囲を超えており、被害想定などは、国に頼ることになる」(新潟県)
「国からはミサイル等不審落下物への当初の基本的な対応要領は示されているが、ミサイル落下時の一般的な被害想定については示されていないため、具体的な被害想定を関係機関で共有できない」(山形県)
しかし、国の方も「各自治体でやってください」というスタンスだ。責任を押し付けあっているように見えなくもない……。
最後はひとりひとりの心がけ
自治体の的確な避難指示を期待したいところだが、各自が自分たちなりにできる対策をしたほうが良さそうだ。実際に、こんな回答もあった。
「具体的対策がないので、その時にならないとわからない要素が多い。万一の時、命、財産を守るために、県民一人ひとりに心掛けてもらえるように、動いていくつもり」(新潟県)
「Jアラート等による情報伝達後、時間的な余裕がないことから、日頃から事前に避難行動を呼びかけることが重要」(京都府)
月刊ザ・リバティ8月号(6月30日発売)では、「『核』着弾まで3分、その時、何をする?――北ミサイルから家族を守る 生存率を上げる33の行動」という特集を組んでいる。
監修として、核放射線防護学の第一人者である高田純・札幌医科大学教授や、地下鉄サリン事件、福島第一原発事故に対処した元自衛隊幹部である濱田昌彦氏に話を伺い、自己防衛のためのマニュアルを作成した。
そこに、各自治体のアンケートの回答も、一覧で掲載してある。自分の自治体の現状も、チェックしてみて欲しい。
(ザ・リバティWeb企画部)
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