新設された豊洲市場の外観。
《本記事のポイント》
- 豊洲市場の「6000億円の投資・日700万円のコスト」はドブに?
- 業者が恐れるのは豊洲市場の「風評被害」
- 「築地・豊洲」論争の奥に「マグロvs鮮魚」の争い
- 「築地・豊洲」並走もありえるのではないか
前編では、記者が実際に築地へ行ったことで見えた、「移転問題」の真の論点についてご紹介した。
ポイントは、「そもそも築地が危ないから移転問題は始まった」「豊洲を嫌がる業者の心配は『安全』より『立地』である」ということ。「築地か豊洲か」の判断は僅差の問題だったことが伺える。
(参照: http://the-liberty.com/article.php?item_id=12568 )
それでも東京都と市場関係者は、「豊洲移転」という意思決定を下した。後編では、「小池百合子・東京都知事が、これを後になって引っくり返したことで、また別の問題が生まれている」ことを紹介したい。
6000億円の投資・日700万円のコスト
「移転の見通しはしていたので、(設備投資などの)準備はしていた」
「冷蔵庫を買って、もうあっちに設置している」
声をかけた多くの業者が、複雑な表情で語った。
豊洲の冷蔵庫棟、場内の無線LAN、冷凍設備などのために、業者は分担して少なくとも数百億円を投資している。さらに豊洲市場では、開場しなくても電気・水道料金、警備費など、ランニングコストが1日約700万円かかるという。
こうした"被害額"は、「東京都卸売市場」が業者からの使用料で積み立てたお金で賄うことが検討されている。本来なら、業者のために他の投資に使えたお金だ。
そもそも、豊洲市場の建設には6000億円の都税がすでに投入されている。これをドブに捨てるような判断は、最終的に正当化されるのだろうか。
連想されるのが、民主党政権の失政として有名な「八ツ場ダム」の建設中止だ。民主党は「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げ、多大な投資額をドブに捨てるところだった。
業者が恐れる「風評被害」
豊洲市場への「風評被害」という問題も出ている。
「(豊洲には)行かないほうがいいよ。あれだけ変な噂が立っちゃったら、お客さん来たくなくなる」
ある卸売業者は語気を強めて言う。
「豊洲が危険だ」という報道を見て、新市場からはネタは仕入れないと決めている寿司屋なども多いという。素材にこだわりが強い料理人ほど、豊洲を避けたくなっただろう。
似たような構図を、福島でも見た。東日本大震災の後、各メディアが福島に“同情"するために放射能の危険を騒いだ。それが結果的に、福島産の農作物などが売れなくなる結果を招き、福島の復興を遅らせた。
「築地・豊洲」論争の奥に派閥争い!?
さらに話を難しくさせているのは、「感情のこじれ」だ。
関係者の「築地・豊洲」論争の背景には、マグロなどを扱う「大物」業界と「鮮魚」業界との間の派閥争いがあるという話も聞こえてきた。
ある卸売業者は「鮮魚の連中は、皆揃って、移転に賛成した。おかしいだろ。お互いに『大きな顔するな』ってことで、争ってたんだよ。巻き込まないで欲しい」と怒りをあらわにした。
こういうことは、どの業界にもあるだろう。いずれにせよ、激しい綱引きの結果、豊洲移転が決まった。計画が進むにつれ、争いのほとぼりも冷めつつあったはずだ。
しかし、小池知事が問題をひっくり返したことで、一度は悔しい思いをした移転反対派が「そらみたことか」勢いづいた。
市場には、豊洲移転への反対を訴えるビラが、多数貼られている一帯があった。
市場内には、全ての店に豊洲移転反対を掲げるビラが貼られている一帯があった。異様な緊張感が漂う。記者が声をかけたある業者は「あんまり変なこと言えないんで……」と顔を伏せた。
もはや、単なる「移転のメリット・デメリット」の話では済まなくなっている。人間の感情のこじれを、今後、どう解きほぐしていくのだろうか。
1月31日、築地市場の東京魚市場卸協同組合の理事長選が行われた。今までの理事長は、移転賛成派だったが、今回は22票対7票という大差で、「大物」業界出身で移転慎重派の早山豊氏が当選した。市場は一気に、移転慎重に雪崩れを打ち、移転へのハードルは高まった。
「立ち止まった」結果、沼に足を取られた
「騒いだコスト」は、あまりにも大きい。
移転をしなければ、多額の投資が無駄になり、築地を再整備するためにさらに多額の投資が必要になる。しかし移転をするにも、風評被害や、こじれた市場関係者の感情を解きほぐさねばならない。
小池氏は、「今一度、立ち止まって考える」として移転の延期を決めた。しかし、一度歩みだした足を止めた結果、深い沼に足を取られてしまったのではないか。
「築地・豊洲」並走構想もありえる
例えばの話だが、いっそのこと、築地・豊洲を並走させるという発想もあり得る。
まずは豊洲に移転し、その間に、築地を一部でも再整備する。そして、「どうしても豊洲が怖い」「立地条件やブランドの観点から、築地がいい」という業者は、築地に戻る。両市場が二極競争をすれば、サービスの質も向上する。
銀座の得意先のために、築地に残って商売をすると決めた卸売業者もいるという。仕入先は、必ずしも一箇所でなければいけないというわけではない。
(馬場光太郎)
【関連記事】
2017年2月9日付本欄 黒い排ガス、戦前の建物……築地に行って見えた本当の「移転問題」(前編)
http://the-liberty.com/article.php?item_id=12568
2016年12月20日付本欄 小池知事の豊洲移転問題は「八ツ場ダム中止」と同じ【大川隆法 2017年の鳥瞰図(3)】