2016年10月号記事
天皇陛下の本心
「生前退位」に隠されたメッセージ
学校で「天皇は日本の象徴」と習ったが、その意味までは……という人は多いはず。
その天皇陛下が今、イスを降りようとされている。御簾の向こうで何が起きているのか。
(編集部 山本慧、小川佳世子)
contents
インタビュー
天皇の本質は「祭り主」
宗教ジャーナリスト
斎藤吉久
(さいとう・よしひさ)
1956年生まれ。弘前大、学習院大卒。総合情報誌編集記者、宗教専門紙編集長代行を経て、現在はフリー。
君主制を採用する国は少なくありませんが、125代もの長きにわたって、1つの王朝が連綿と続いているのは、日本だけです。それは古来、天皇が祭り主とされ、民が信じるすべての神々をまつる祭祀によって国と民を1つに統合してきたことと無関係ではあり得ません。
今回のビデオ・メッセージで、陛下は天皇のお務めについて、「国事行為」「象徴的行為」のほかに「伝統」と説明されました。「伝統」とは、まさに「天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきた」と仰せになったように、宮中祭祀です。
古代律令には、「およそ天皇、即位したまはむときは、すべて天神地祇祭れ」と定められ、第84代順徳天皇が著された『禁秘抄』の冒頭には、「およそ禁中の作法は、神事を先にし、他事を後にす」と書き記されているように、国と民のためにひたすら祈ることが皇室の伝統です。
天皇の祭祀は1年365日、欠かさず捧げられてきました。天皇の1年は四方拝という神事で始まります。皇室第一の重儀とされる新嘗祭では、天皇は皇祖天照大神ほか天神地祇を祀り、米と粟の新穀を神前に供せられ、みずから召し上がり、「国平らかに、民安かれ」と祈られます。
ローマ教皇は当然、唯一神に祈りますが、日本の天皇はすべての神々に祈りを捧げます。そのことが世界に稀なる多元的な宗教的平和共存を実現させてきました。
けれども、今日の政府・宮内庁の天皇観・皇室観は、これとはまったく別で、現行憲法を第一とする一元主義に立ち、天皇の祭祀は「皇室の私事」とされています。
宮内庁は、今上天皇御在位20年のあと、ご公務ご負担軽減策を打ち出しました。ご健康と高齢化に配慮したものと説明されましたが、実際、標的にされたのは宮中祭祀のお出ましであり、逆に、ご公務は増え続けました。
今回のお言葉は「象徴としてのお務めについて」と題されています。陛下は高齢化社会という現実を前に、「象徴天皇」のあり方を国民に問いかけられました。戦後71年、国民はどこまで深く考えてきたのかが問われているのです。(談)
新年を祝うための一般参賀。 写真:UPI/アフロ
本当に82歳!? 激務すぎる天皇陛下のご公務
東日本大震災の被災地訪問。写真:ロイター/アフロ
訪日した外国の元首との謁見。Asianet-Pakistan / Shutterstock.com
皇室と国民はどう違う?
- 苗字がない
- 参政権がない
- 政治的な言論や、職業選択の自由には制約がある
- 皇族の結婚は、総理大臣や宮内庁長官などが出席する皇室会議を経る必要がある
- 医療費は宮内庁の予算から出ている
- 納税義務はある
皇族は、江戸時代の貴族の教育機関だった学習院への入学が通例だ。写真:代表撮影/ロイター/アフロ
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