リオオリンピックの日本選手の活躍と、感動のドラマに夜更かしが続いている人も多いだろう。

女子レスリング53キロ級では、オリンピック4連覇を目指した吉田沙保里が決勝で敗れた。

吉田選手は、オリンピックを含めた世界大会で16連覇中。誰もが金メダルを期待していたが、残念ながら4連覇はならなかった。

吉田選手を破ったのは、アメリカのヘレン・マルーリス選手だ。日本ではあまり知られていないが、どのような選手だったのか。

厳しい練習環境を跳ね除ける

7歳のころからレスリングを始めたマルーリス選手だったが、当時は女子レスリングがオリンピック競技の種目ではなかったため、両親には競技を続けることを反対されたという。

実際、練習環境も恵まれたものではなかった。高校時代は、メリーランド州のレスリング代表チームに所属していたが、同州では女子レスラーの人口が少なく、主に男子選手と対戦していた。

男子選手やコーチからは女性選手だからと軽く見られることも多く、マルーリス選手が女性であるという理由で、試合を棄権する対戦相手もいた。

そうした厳しい環境でもあきらめなかったマルーリス選手は、男性も参加するメリーランド州のトーナメントで6位入賞。女性では初の入賞だった。

レスリングを愛し続け、選手としてのキャリアを積んだマルーリス選手は、前回のロンドンオリンピックでは代表を逃したが、2015年の世界選手権で優勝を果たした。

吉田選手のインタビューまで徹底的に研究

リオでも優勝したいと願ったマルーリス選手は、コーチと共に徹底的に吉田選手の研究を重ねた。

過去の対戦成績は2戦2敗で、マルーリス選手にとっては一度も勝ったことがない相手だ。

吉田選手の試合映像を繰り返し研究し、日本語のインタビュー映像を翻訳して聞き、さらには吉田選手の出演するコマーシャルCMまで調べた。

マルーリス選手は、「彼女がどのように考えるのか、どのように戦略をたてるのかを知りたかったのです」 「吉田選手がおごる姿を見たことがありません。3回金メダルを取っているのに、それでもなお彼女は謙虚で素敵でした。彼女を敵として見ることをやめたのです」と述べている。

徹底的な研究を重ね、さらには減量という厳しい壁を乗り越えたマルーリス選手は、吉田選手との決勝戦で早い時間からリードを奪い、大金星をあげた。

「長年、さおりとレスリングすることを夢見ていました。彼女はヒーロー。このスポーツで最も栄冠を手にしたレスラーです。試合できて光栄でした」

アメリカ紙での反応

マルーリス選手の金メダルは、アメリカ女子レスリングにとっては初の金メダルとなった。

アメリカのメディアは、2000年のシドニー五輪で、同じくオリンピック三連覇を成し遂げたロシア人選手アレクサンドル・カレリンを、アメリカ人選手ルーロン・ガードナーが破った奇跡になぞらえて、マルーリスの勝利を称えている。

アメリカにとっても、「不動の女王」を破ったマルーリス選手の活躍は「奇跡的」なものだったのだろう。

妥協を許さず頂点を目指す

吉田選手とあたることを避けて他の階級に転向した選手も多い中、厳しい減量を行ってまで53キロ級でナンバーワンを目指したマルーリス選手からは学ぶことが多い。

2番手を目指しても感動のドラマは生まれない。妥協や言い訳を許さず頂点を目指したからこそ、歴史的ドラマが生まれた。

また、4連覇を逃した吉田選手も、16年近く世界ランキング1位の座に君臨し続けている。その努力と精神力は想像を絶するものがある。

吉田選手の努力が、他の選手を鼓舞し、力のある選手を育ててきたことは間違いない。

新星の誕生を祝うと共に、吉田選手の活躍を称えたい。(片)

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