不倫相手とされる元ポルノ女優への口止め料を不正に処理した疑惑をめぐるトランプ前大統領の刑事裁判の公判(関連記事:「トランプ前大統領が出頭、無罪主張」)が、4月15日からニューヨーク州地裁(犯罪裁判所)で始まった。

1週目で陪審員12名が選出され、2週目から証人喚問が始まった。23日には、トランプ氏の知人で米誌ナショナル・エンクワイアラー元発行人のデビッド・ペッカー氏が、2016年大統領選挙の時に、トランプ氏や当時の顧問弁護士マイケル・コーエン氏と協力して、トランプ氏の評判を落とす記事を金銭で押さえ込んだと証言した。5月3日にはトランプ氏の元側近、ホープ・ヒックス氏(元ホワイトハウス主席報道官)が当時の状況を振り返る感情的な証言が話題となった。

検察側は、トランプ氏と弁護士が16年大統領選前に不倫の口止め料を支払ったことが、ニューヨーク州法の「違法当選共謀罪」にあたると、初めて明らかにした。この「犯罪」を隠すために、トランプ氏は17年に一族企業の会計を不正に処理し、それが重罪に該当すると主張した。

一方のトランプ氏弁護側は、元ポルノ女優への口止め料の支払いを認めた上で、「トランプ氏の名誉を守るための『合法的な秘密保持契約』であり、違法性は一切なかった」と主張した。

一般的には、検察側の主張には無理があると考えられており、世論調査(AP通信)でも、「トランプ氏が違法行為を働いた」と考える成人アメリカ人は3人に1人しかいない(4月16日発表AP-NORC調査)。

ハーバード・ロースクール名誉教授アラン・ダーショウィッツ氏(民主党員)は、「この60年で最も根拠薄弱なケースだ。どこにも犯罪は見当たらない。口止め料の会計処理の改ざんで起訴されたことはアメリカ史上一度もない。個人を狙った、司法制度の濫用だ。客観的な司法基準がなければ、アメリカ人は危険に晒される。かん口令も違憲だ」などと発言した(4月13日のFOXニュース・インタビュー他)。

また、トランプ氏をはじめ、保守系の弁護士やメディアは「この裁判は明らかな選挙妨害だ」と主張し、リベラル系メディアや民主党系識者は、訴訟自体の正当性については議論を避け、公判の証言者や証言内容、公判中にトランプ氏が居眠りをしていたかどうかなどの表面的な報道に終始している。

普通は重犯罪にならないが……

常識的には、これが重罪になることは考えにくい。だが、同じニューヨークでの民事訴訟で、女性作家に対するトランプ氏によるレイプ疑惑という"根拠薄弱"な主張が、今年1月末に陪審員の評決によって認められ、トランプ氏は8330万ドル(約130億円)の損害賠償の支払いを命じられた。

そうした例もあることから、アンチトランプで占められるニューヨーク・マンハッタンでは、裁判でトランプ氏に不利な判断が下される可能性が高いと考えられている。4月25日発表のCNN世論調査でも、「トランプ氏が公正な裁判を受けることに自信がない」と答えた人の割合は56%に上った。