日本理化学工業の川崎工場。凛とした空気が流れ、各人はそれぞれの作業に集中する。

2016年9月号記事

働く意味は、障害者が教えてくれた

人はなぜ働くのか。仕事の本質を、働く障害者を通じて考える。

(編集部 河本晴恵)

焼きあがったチョークの数を揃え、梱包する工程を担当する従業員。

障害を持って生きる人を、社会はどう支援していくべきなのか。「手厚い保護が必要」という考え方もあるでしょう。しかし、それは果たして全ての障害者にとって幸福なのでしょうか。

福祉施設の限界

一般の企業で働けない重度の障害者の多くは、「共同作業所」と呼ばれる福祉施設に通っています。多くの施設では、ラベル貼りや小物の作成などの内職や、食品販売を行っています。

しかし、 雇用契約のない共同作業所に通う障害者の月収の平均はわずか1万円程度で、自立はかなり難しい額です。

脳性マヒで思うように体を動かせない障害を持ち、福祉施設に通ったことのある大阪府在住の山中康弘さん(35歳)はこう話します。

「福祉施設で行う"仕事"も、趣味の延長のようになっています。例えばカバンをつくるにしても、外で売れないので収入になりません」

障害者がどんなに働いても、市場で売れる商品やサービスを提供できなければ、障害者の収入の増加にはつながりません。

ボランティアで運営されている福祉施設も多い一方、政府から多額の補助金を得ている施設もあります。ただ、本来は働いて自立するために利用する施設のはずが、障害者の居場所の役割を果たすだけになっている例も少なくありません。

広島県に住むある障害者の保護者は、「私にもしものことがあったら、と思う。娘には何とか手に職をつけてもらいたい」と話します。

今回は、障害者やその支援者というそれぞれの立場から、本当に必要な支援のあり方を考えます。まずは、重度の知的障害者の就労が当たり前ではなかった時代、道を切り開いた企業の事例を紹介します。

次ページからのポイント

障害者雇用のさきがけ

働く喜びを提供するには

なぜ、障害者は働きたいのか

誰もが何かを与えるために生まれてくる