《本記事のポイント》

  • 福祉国家を目指すヨーロッパ諸国では、高所得でなくとも所得税の最高税率が適用される
  • 増加し続ける社会保険料と消費税で、中間層はダブルパンチ
  • 美徳ある国民は、減税政策によってつくられる

アメリカ大統領選で民主党候補者による「富裕層」への課税案が話題になっている。11月下旬にアトランタで行われた討論会でも、バーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員らが、「われわれは一握りの億万長者に支配されている」と息巻いた。要するに、富豪は悪者で、彼らから取って分配すれば「格差が解消される」という考えだ。

ウォーレン氏が提案する富裕税は、株式や不動産などすべての保有資産を合計し、その規模に応じて課税するもの。対象となるのは、5000万ドル(約54億円)超の資産を持つ7万5千世帯である。

10年間で、3兆ドルの税収増を見込むという。この富裕税に対するアメリカの有権者の支持率も高い。

日本には超富裕層は少ないが、それでも富裕税には注目が集まっている。社会保障費の確保のために、現在20%である金融所得への税率の引き上げを求める声も専門家から出始めた。

だが、かつて富裕税が導入されたヨーロッパでは、その大半が撤廃に追い込まれた。1990年代には、フランス、ドイツ、オランダなど12カ国が導入していたが、現在はスイス、ノルウェー、スペイン、ベルギーの4カ国のみだ。フランスでは富裕層の海外移住が相次ぎ、マクロン大統領が廃止している。

福祉国家は中間層への課税強化で成り立つ

富裕税が撤廃された結果、欧州諸国は社会保障の財源の確保のために、中間層の課税強化へと向かった。このことを11月29日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説が詳述している。

(1)所得税の最高税率は、中所得者に適用される

まず所得税について。ドイツでは、夫婦で合わせて124000ドル(約1348万円)以上稼ぐと42%の所得税が課される。一方アメリカでは、その所得階層は22%の所得税しか課されない(ちなみに日本では1300万円の所得層は33%の所得税を課される)。

スウェーデンでは、47000ドル(約511万円)を稼ぐ世帯から、所得税の最高税率55%が適用される。欧州の状況は似たり寄ったりで、ベルギーは平均所得の1.1倍、オランダは1.4倍から最高税率が適用される。

一方アメリカは、所得税の最高税率が適用されるのは、6700万の所得層からなので、平均的な給与水準の9.3倍になるまで最高税率が適用されない。

(2)社会保険料増で手取りが減る

所得税だけでは福祉国家を支えきれないため、次なる財源となっているのが社会保険料である。

アメリカでは社会保険料の労使負担率が16%に留まっているのに対して、スウェーデンやドイツでは約40%にも上る。

さらに日本の消費税にあたる21%の付加価値税も社会保障の財源となっている。欧州諸国は付加価値税だけで税収の4分の1をまかなう。

非正規増大と給与減額はすぐそこに

こうして見てくると、欧州型の福祉国家は所得税の最高税率を中所得者に適用したり、高い社会保険料を支払わせたりするなどして、中間層の懐を直撃している。

福祉国家は、「高所得者に課した高い税金が再分配される社会」という、日本の政治家がつくりだすイメージは、まったくの「幻想」だということが分かる。

今、日本では政治家が有権者に「老後のためなら高い税金を払っても仕方ない」と思わせているが、福祉国家の代償について、有権者に誠実な説明をしていない。

とくに、増え続ける社会保険料は切実な課題だ。健康保険組合連合会(健保連)は9月、2022年度にも医療・介護・年金を合わせた社会保険料率が初めて30%(労使合計)を超えるとの推計を発表している。

つまり景気がよくなり賃金が増えなければ、毎年給与が下がり続ける日がすぐそこにやってくる。社会保険料を値上げすれば、企業は正社員の採用を控えるようになり、さらに非正規が増えてしまう。

現役世代が使えるお金が減れば、自己投資にかける費用も減少する。国民全体が「稼げる能力」を高められなければ、国力も減っていく。パイが小さくなれば、分け前は一見平等だとしても、幸福感や充実感の少ない社会になってしまう。

政治家には国民の品性を高めるミッションがある

福祉国家の恐ろしい点は、これだけではない。過度な福祉政策は、国民の堕落を招くことだ。

大川隆法・幸福の科学総裁は2012年、イギリスを繁栄に導いた著作『自助論』で有名なサミュエル・スマイルズの霊言を収録。スマイルズ霊は、税率について、こう語った。

要するに、企業家としての知恵や努力を認めない社会が出来上がってきて、『自分たちが貧しいのは、一部、得している人がいるからだ。累進課税にして、そこから巻き上げて、ばら撒けばいい』ということになり、それが進めば、かつてのイギリスのように、累進課税も最高九十八パーセント近くまでいくこともある

九十八パーセントって、収入が一千万円あったら、どのくらいですか。九百八十万円が税金ですか。手取りが二十万円ぐらい? ありえない話ですね。これが正義の姿かどうかです。それだったら、人は年収二十万円の職を選ぶかもしれませんね 」(『現代の自助論を求めて─サミュエル・スマイルズの霊言』)

要するに、過大な税金を取られるぐらいなら、働くのをやめてしまおうと思う国民が増えてしまうということだ。

一方、税金を下げれば、働くインセンティブが高まるので、自助努力型の人が増えていく。国の政策次第で、「勤勉さ」や「自助努力」といった人間としての品格を生む「徳」は、高まりもすれば下がりもする。

政治家は本来、国民を徳ある市民に導く使命がある。「減税」政策は、美徳ある市民をつくるために不可欠だ。

(長華子)

【関連書籍】

『現代の自助論を求めて』

『現代の自助論を求めて』

大川隆法著 幸福の科学出版

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