中国家電大手の美的集団はこのほど、ドイツの大手産業用ロボットの製造会社「クーカ」を買収することが、ほぼ確実になったことを発表した。

東芝の白物家電事業も買った

美的集団と言えば、今年3月に東芝白物家電事業の買収を決めた企業だ。

同社がクーカ社のロボット技術を手に入れる目的は、自社工場の自動化だという。中国企業には、事業展開に必要な技術やノウハウを、自ら創造するのではなく、「金で買う」という発想が強いと言われている。

指をくわえてみているドイツ政府?

一方、ドイツ政府は、この買収に対して危機感を強めている。

クーカ社は、ネットワークにより製造業の生産性を飛躍させる「インダストリー4.0」を主導するドイツ有数の企業。その最先端技術が中国に渡ってしまうのは、国益上の大損失だ。

しかし、自由な市場取引を尊重する立場として、ドイツ政府は不介入という立場を取っている。ドイツには、「安全保障を脅かす危険がある場合は、外国企業による買収を規制できる」という法律があるが、今回の件では適用されていない。

ロボット技術、即、軍事技術

しかし、本当にこの買収は安全保障上の問題がないのだろうか。

ロボットが人を殺す時代が来ている。ちょうど今、米南部テキサス州ダラスで起きた警官狙撃事件で登場したロボットが話題になっている。警察は立てこもっている容疑者のもとに、爆弾を装着したロボットを送り込み、殺害した。

アメリカを始めとする主要国は、コンピューターで制御するロボット兵器の開発を急いでいる。あらかじめ命令をプログラムすれば、状況に応じて自律的に行動し、場合によっては自らの"判断"で人も攻撃する。

中東などで飛び回る米軍の無人機もそうだが、ロボットは、次世代の戦争の主役になる。

中国の軍事技術に転用?

この流れの中、ドイツ最高峰のロボット技術が、中国の軍事技術に転用されるリスクは否定できない。

特に中国では、あらゆる企業は政府の管理下に置かれている。同国には「国防動員法」なる法律があり、有事の際には国内企業の物資・技術もすべて政府が意のままに使える。国防動員委員会の白自興少将(2010年当時)は、「外資や合弁会社も法律の適用対象になる」と発言しており、クーカ社のロボット技術も対象となるだろう。

「経済の自由主義の原則を守る」という観点も重要だが、「中国の覇権主義から世界の自由を守る」という観点からも、今回の買収事案は防衛の視点から再考すべきではないか。(慈/光)

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