プロボクシングの元世界ヘビー級王者・モハメド・アリが、このほど、敗血症により74年の生涯に幕を下ろした。アメリカのオバマ大統領が「最も偉大な者と同じ時代を生きたことを幸運に思い、神に感謝している」と追悼声明を発表するなど、ボクシング史に名を残すボクサーの死を惜しむ声はやまない。
蝶のように舞い、蜂のように刺した
プロ通算成績は61戦56勝5敗。
それまで、力にモノを言わせた殴り合いを中心としていたヘビー級選手の中で、アリは軽やかなフットワークと鋭いジャブを武器に、世界ヘビー級王座を3度も獲得するなど、一時代を築いた。そのファイトスタイルは、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と例えられた。
日本では、1976年に日本武道館で行われた、プロレスラーのアントニオ猪木氏との異種格闘技戦を思い出す人も多いかもしれない。
リング外では人種差別と戦い続けた
リング外での"戦い"も印象深い。
アリがリングに上がり始めた1960年代、アメリカでは黒人差別が根強く続いており、キング牧師による公民権運動の全盛期だった。アリも18歳という若さで、1960年のローマ五輪で金メダルを獲得したにもかかわらず、黒人だからという理由で、故郷のレストランへの入店を拒否された経験を持つ。
国のために戦ったはずなのに、国民に称賛されるどころか、差別されるという苦しみは計り知れない。
同年に起きたベトナム戦争で、アリは「ベトコン(南ベトナム解放軍のゲリラ部隊)は、私を『ニガー(黒人の蔑称)』と呼ばない。彼らには何の恨みもなく、彼らを殺す理由がない」という理由で、兵役を拒否した。
この結果、国民の義務を怠ったという理由から裁判で有罪とされる。アリはボクシング・ライセンスを停止、タイトルも剥奪され、一時期はリングから遠ざかるという苦難を味わっている。
その後、最高裁判所が無罪判決を言い渡したのを機にリングに復帰した。1974年、象をも倒すハードパンチャーと言われていた、ジョージ・フォアマンに対して、下馬評を覆し、KO勝ちを収め、王者に返り咲くなど、鮮やかな復活を遂げている。
イスラム教徒としての信仰
ボクサーとしての強さはもちろんだが、人種差別と戦った精神的強さも興味深い。その精神的強さは、アリのイスラム教への信仰心から出てきているようだ。
アリは1964年に、イスラム教に入信し、「カシアス・クレイ」から改名している。とある番組の中で、自身の死生観について次のように語っている。
「年を重ねるにつれ、歯や髪は抜け、肉体は傷むかもしれないが、魂や精神は決して死なない。肉体は魂や精神を宿しているだけにすぎない(中略)人生で一番大切なことは、死ぬ時に何が起きるかということだ。(中略)神に会う準備をし、最善の場所へ行こう」
(サイトURL: https://www.youtube.com/watch?v=YEYm4vHQCWo )
死後の世界の存在や、人間は誰もが平等に魂を宿していると信じていたからこそ、人種差別に屈することなく、何度も立ち上がり続けられたのだろう。
あの世や神の存在を信じる、スポーツマンは、アリだけではない。
例えば、サッカー・ブラジル代表のネイマールはクリスチャンで、試合前にいつも父親に電話をかけ、一緒に祈りを捧げるという(2015年6月17日付クリスチャントゥデイ)。同じく代表のチームメイトであるカカも、熱心なプロテスタントの信仰者だ。
スポーツの実力とともに、選手たちの宗教的な価値観にも注目すると、もう一段違った視点からスポーツを見ることができるかもしれない。
(冨野勝寛)
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