NHK報道番組「クローズアップ現代」のやらせ疑惑をめぐり、高市早苗総務相がNHKに厳重注意したことについて、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会の川端和治委員長は、「放送法を根拠にした放送への政治介入は認められない」と述べ、"政府の介入"を批判した。13日付各紙が報じた。
事の発端は、NHKが昨年5月14日に放送した「追跡『出家詐欺』~狙われる宗教法人~」。番組では、ブローカーと称する男性が、多重債務者を出家させたうえで戸籍名も変更させ、融資をだまし取る様子が紹介されたものの、その男性が後に「ブローカーの経験はなく、記者からやらせの指示を受けた」と訴えたため、問題が明るみになった。
これを受け、NHKは今年4月に「過剰な演出があった」と認め、関係者15人を処分。しかし、肝心のやらせ疑惑については否定した。同日、高市総務相が、公平な報道を定める放送法に基づき、NHKに厳重注意の行政指導を出していた。
今回の発言は、この指導が問題であるという。疑惑の発覚を受け、番組を審理するBPOも、「重大な放送倫理違反があった」と指摘するにとどまり、あくまでも「やらせ」はなかったとの認識に立つ。
NHK・BPOはやらせと認めるほかない
しかし、一般的な感覚では、客のふりをして品物を購入させようとする偽客(さくら)のことを「やらせ」と呼ぶ。NHKが「やらせはない」というのは強弁でしかなく、その点を指摘できないBPOにも大いに問題がある。
そもそもBPOが、公正・中立な報道を指導できる体制を整えているかは疑問だ。同団体は、問題が起きた放送局に対し、強制的に資料を提出させるなどの権限はなく、放送局に「自主的な解決」を促す組織。罰則機関としての役割はないのに加え、委員には、日本民間放送連盟の関係者や、ジャーナリストらが占めており、いわば"身内体質"が強い。そうした団体が、どうやってマスコミ界を公正なものにできるのか。
今回の問題をきっかけにして、BPOのあり方にも見直しが必要である。マスコミ界の自浄作用をもたらす機能を取り入れなければ存在意義を失うだろう。(山本慧)
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