安倍首相が設置した有識者会議「安全保障と防衛力に関する懇談会」が開かれ、外交と安全保障の中長期的な方針となる「国家安全保障戦略」の概要が決まった。政府は今後、関係省庁とも連携し、12月には新防衛大綱と共に閣議決定する予定だ。

今回概要が決まった安保戦略では、「積極的平和主義の立場から、世界の平和と安定、繁栄に寄与する」との理念を掲げ、中国と北朝鮮の軍事的脅威を明記し、武器輸出三原則の見直しも打ち出した。

「東シナ海を友愛の海に」「米軍基地は、最低でも沖縄県外へ」などと的外れな発言をしていた民主党政権から見れば、中国や北朝鮮への脅威を念頭に国防強化の議論が進んでいること自体は評価できる。

ただし、武器輸出三原則の見直しについては、野田政権下でも戦闘機などの国際共同開発・生産への参加を解禁するなど緩和の方向で進み、特別目新しいことではない。それよりも安倍首相は他にやりたいことがあったのではないか。

そもそもこの「安全保障と防衛力に関する懇談会(安保懇)」は、主に集団的自衛権のあり方を検討している「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」とセットで、安倍首相が設置した私的諮問機関である。

安保法制懇は、集団的自衛権の行使容認を目指す安倍首相によって、第1次安倍内閣時代の2007年に設置された。安倍首相が病気で退陣したため、解釈見直しの議論が棚上げされていたが、第2次安倍内閣が発足して再開した。

今回の「国家安全保障戦略」にも、集団的自衛権行使容認の方針を盛り込みたいと考えていたようだが、連立を組む公明党が「予想を上回るほど強硬に」反対したため、行使容認の検討を来年以降に先送りすることになった。しかし、公明党がこの件で態度を軟化する望みは薄く、先送りしても決定できるとは限らない。

集団的自衛権の行使容認は日米が連携してアジアの安全保障を強化するという大方針に不可欠なものだ。

世界の警察官を降りたがっているアメリカにとって、「日本が攻撃された場合は米軍が守らなくてはいけないが、米軍が攻撃されても日本は何もしない」という片務的な日米同盟をいつまでも維持したくはない。この柱が立たなければ、他の議論はすべて骨抜きになる。

安全保障分野のみならず、最近の安倍首相は一番根幹の部分から逃げている気がしてならない。

秋季例大祭の靖国参拝を見送り、先日の参院本会議での代表質問では、日本の過去の植民地支配や侵略について「アジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えたとの認識は安倍内閣も同じ」と述べ、歴代内閣の“自虐的"な歴史観を引き継いだ。この姿からは日本を守ろうとする気概は感じられない。

経済政策においても、農業の自由化や雇用規制の緩和など、「抵抗勢力」が多い分野の議論をトーンダウンさせ、医薬品のネット販売の解禁やごく一部の建築規制の緩和など、周辺の議論に終始している。

幸福の科学グループの大川隆法総裁の新刊『吉田松陰は安倍政権をどう見ているか』では、吉田松陰霊が、安倍首相が周辺に配慮し、融和的な政策を取る理由を以下のように分析している。

「『前回の総理のときの失政は、人の言うことを聴かなかったからだ』と思って、今回は、一生懸命、『聴くふり』をしてみせているようには見えるな」

物事を変革する際には批判はつきものであり、妥協を重ねる姿勢では何も変わらない。安倍政権は政権の維持を第一に考えるのではなく、「日本の未来にとって何が正しいか」という観点で決断をしてほしい。(佳)

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